Xilinxがビデオアプライアンス市場に参入
米Xilinxは6月16日(米国時間)、ビデオアプライアンス向けとなる「Video Transcoding Solution」の提供を発表した。これに先立ち、同社のAaron Behman氏(Director of Video Product Marketing, Data Center Group)からこれに関する事前説明が行われたので、その内容をお届けしたい。
まず背景から説明すると、インターネットにおける動画のトラフィックが年々増えているという話はご存じの通り(Photo01)。
そうした中、配信側としてはどうやって品質を落とさずにトラフィックを下げるかが大きな課題になっている(Photo02,03)。
ただ実際の利用シーンでは、
- 少数のコンテンツに、大量の視聴者がぶら下がる(中継・ライブなど)
- 多数のコンテンツに一定の視聴者がぶら下がる(映画などのオンデマンド再生)
の2つがミックスする形になっており、この両方を満足させる必要がある(Photo04)。
こうしたデマンド(Photo05)に向けて、なぜXilinxが改めてアプライアンス向けソリューションを提供し始めるのか、といえば、2020年7月に同社が買収したNGCodecの存在がある。
NGCodecはFPGA向けのCodec IPを提供しており、これを利用してOEMがFPGAをベースにしたアプライアンスを構築していた訳だが、ここからもう一歩進めてアプライアンスを簡単に作れるキットまで提供を開始する、というのが今回の発表の主眼となる。
具体的には、高性能向け(Photo04で左側)にAlveo U50を、高チャネル密度向け(Photo05で右側)にAlveo U30を利用したソリューションを発表した形だ(Photo06)。このAlveo U30そのものは、名前だけはこれまでも時々出てきたのだが、発表は今回が初めてとなる(Photo07)。
面倒な環境構築なしでビデオアプライアンスの活用が可能に
U30そのものは汎用製品であるが、今回はメディアトランスコード性能を前面に押し出した形での発表となった。このAlveo U30ないしAlveo U50の上で動くソフトウェアを、Xilinxからはコンテナの形で提供、それをオンプレミスなりクラウドなりでそのまま利用できるので、面倒な環境構築無しで即座に利用できるというのが同社の説明である(Photo08)。
ソフトウェアスタックとしてはFFmpegをベースに、これ向けのエンコード/デコードプラグインやFPGA向けAPI/Binaryをまとめて提供する形で、これがコンテナの形での提供になる形だ(スライドの左端にdockerのアイコンがある事からこれが判る)(Photo09)。
またオーディオや広告挿入(Ad Insert)などにも対応しているとする。加えて2020年第3四半期にはWowzaのStreaming Engineも提供される予定としている(Photo10)。
トランスコード性能に関する目安はこちら。レイテンシ25ms未満で、U50はFull-HDを2本、U30はUltra-HDを2本、それぞれトランスコード可能としている(Photo11)。
ちなみに競合製品と比較すると、U50の方は3割少ないビットレートで同等の画質が確保できるとされ、一方U30は同等の画質をより少ない消費電力で実現可能としており(Photo12)、これが差別化要因になるとする。
Photo13・14が実際に競合との構成を比較したもので、同等の処理性能をより少ない消費電力と価格で実現できる、としている。
すでにリファレンスハードウェアの提供も開始
さてこのソリューションだが、HPのProLiantに加え、Xilinxのリファレンス機(WistronのTransformer G2E)もすでに提供を開始しており、2020年夏にはHypertecとBOSTONからも提供が予定されているとする。
さて、説明はこの程度だが、ここまでターンキーソリューションを提供すると、これまでXilinxのFPGAをベースにビデオアプライアンスを提供してきたパートナー企業の製品(例えばAdvantechのVEGA-4000)と思いっきりビジネスが被る気がするのだが、その点について「確かにぶつかる事もあるかもしれない」(Behman氏)としつつ、冒頭のPhoto05のキャプションにあるように、なるべくこれまで手薄だったマーケットを狙う(事で、既存のパートナーのビジネス領域を侵さない様に努力する)としている。この割り切りというか、なりふり構わなさはちょっとこれまでのXilinxに無かった方向性であり、データセンターファーストという同社の現在の基本戦略に対する新しいアプローチなのかもしれない。