米国半導体工業会(SIA)をはじめ、世界各国の半導体関連の業界団体(10団体)は、2020年3月末、新型コロナウイルス流行期間中、重要なサプライチェーンの一端を担う半導体業界の業務続行を優先してもらいたいという要請を各国政府に向けて発表したが、6月に入り、今度は「新型コロナウイルス流行期間中、半導体業界の業務続行に必要不可欠の作業者が必要不可欠の海外出張をすることを許可するよう各国政府に要請する」といった声明を発表した。
現在、各国の外交担当省庁や半導体・電子機器担当省庁に対して、これら業界団体は、半導体関連技術者の海外渡航を可及的速やかに許可するよう嘆願しているという。日本からは半導体工業会に替わる日本電子情報技術産業協会半導体部会(Japan Semiconductor Industry Association:JSIA)が声明に署名している。同部会は、日本の半導体企業52社が加盟している。
声明では、まず、世界各国政府が半導体産業やマイクロエレクトロニクス産業従事者を新型コロナウイルス蔓延期間中であっても必要不可欠な労働者(Essential Worker)に認定してくれた事に感謝を述べており、その結果として、新型コロナウイルスとの戦いに必要な医療機器やエネルギーグリッド、輸送、通信ネットワーク、金融システム、水道などの業界が正常に操業するために必要な電子部品を問題なく供給できるようになったとしている。
また、これを踏まえ、新型コロナウイルスが蔓延する中にあっても半導体関連技術者が海外に出張する必要性として、「国外から輸入された製造装置や材料を活用するためには、国内では得られない専門的な知識が必要になる場合ある。特に最先端の技術を搭載する半導体製造装置は、あまりに複雑であり、オンラインを通じた指示や現地のフィールドエンジニアによる対応では不十分であり、装置メーカー本社の技術者が出向いて設置作業や修理を行う必要がある。同様にクラウドコンピューティングのようなシステムが完全に能力を発揮するようにするためには最適化作業を行う必要がある。そのため、世界中の政府に対し、我々はこの必要な不可欠な産業が製造工場の稼働を維持するために、必要とされる技術者たちが必要不可欠な作業を行うための出張を許可してもらえるように要請する」と述べている。
なお、声明に署名した半導体関連10団体は以下の通り(英語名のABC順))
- American Malaysian Chamber of Commerce(AmCham Malaysia)
- Semiconductor Industry Association in China(CSIA)
- Semiconductor Industry Association in EU (ESIA)
- Semiconductor Industry Association in Japan(JSIA)
- Semiconductor Industry Association in Korea(KSIA)
- Semiconductor & Electronics Industries in the Philippines Foundation, Inc.(SEIPI)
- SEMI
- Semiconductor Industry Association in U.S.(SIA)
- Singapore Semiconductor Industry Association (SSIA)
- Semiconductor Industry Association in Chinese Taipei(TSIA)
海外渡航禁止で日本の装置メーカーにも支障が
日本も半導体製造装置メーカーの技術者の海外出張が長期に渡って禁止されているため、中国武漢にあるYMTCの3D NANDフラッシュメモリラインはじめ海外の半導体工場のライン増設や増産のための新規装置設置・立ち上げや修理に支障が出ており、各社の業績にも影響が出始めている模様だ。
外務省は5月25日、「水際対策強化に係る新たな措置」を発表し入出国をさらに厳しく規制することを明らかにしており、6月5日には渡航中止勧告の国数を18か国増やしている。日本からの入国を制限している国も181カ国に及んでおり、日本人の入出国は困難な状況にある(6月15日時点)。
複数の政府関係者が6月11日に明らかにしたところによると、産業界からの強い要請で、日本政府は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う入国制限に関し、今夏からタイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国から1日最大250人程度のビジネスパーソンの入国を認める方向で最終調整に入ったという。一方、これらの国々の中には、日本の新型コロナウイルスが収束したとは認め難く日本人の入国を認めることに難色を示しているところもあると伝えられているので、今後の外交交渉の行方が注目される。
半導体装置業界では、主たる販売先が中国、台湾、韓国であり、それらの国への渡航を強く望んでいるが、これらの国については渡航緩和への動きはまったく見られず、各団体が当初希望していた今夏の渡航解禁は絶望的な状況になってきており、そうした動きを踏まえ、一部の日本の素材・部品・装置メーカーでは、例えば韓国での工場新設・増設工事を急ぎ実施し、現地での増産によるLocal Sourcing(現地調達)で対応しようという動きを見せるところもでてきているようだ。