米国の首都ワシントンD.C.に本部を置く米国半導体産業の業界団体である「半導体工業会(Semiconductor Industry Association:SIA)」は6月10日(米国東海岸時間)、米国の超党派の国会議員が上下両院に提出した米国の半導体製造を強化するための法案に対して賛意を表明すると発表した。
米国の半導体製造強化法案の早期可決を要請
この法案は、CHIPS for America法と呼ばれ、CHIPSはCreating Helpful Incentives to Produce Semiconductorsの頭字語である。つまり、米国が半導体製造を強化するための補助金を創設するための法案である。米国経済および国家安全保障にとって必要不可欠な半導体技術を維持し強化するために、今後5~10年に渡り半導体製造および研究開発に数百億ドル(数兆円)の補助金をつける法案を、民主党および共和党の国会議員有志が超党派で提出した。上院にはテキサス州選出のJohn Cornyn議員はじめ5人の議員が6月10日に、下院にはカリフォルニア州選出のDoris Matsui議院ら2人が11日に提出した。
「半導体はアメリカで発明され、アメリカの企業は今日でも半導体チップ技術で世界をリードしているが、グローバルな競争の政府の多大な投資の結果、米国は今日、世界の半導体製造能力の12%しか占めていない」とON Semiconductor社長兼CEOで2020年度のSIA会長であるKeith Jackson(キース・ジャクソン)氏は述べている。また、同氏は「CHIPS for America法は、我が国がこの課題に立ち向かい、半導体の製造と研究に投資し、経済と国家安全保障にとって戦略的に重要なチップ技術の世界的リーダーであり続けるのに役立つ。私たちは、この法案を提案した議会の超党派の指導者グループを称賛し、米国の半導体製造と研究を強化する超党派の法律を速やかに可決するよう議会に要請する」ともコメントしている。
SIAも、「米国には、18州に半導体製造工場があり、半導体は米国にとって5番目に大きな輸出品である。ただし、他の国々では、半導体製造に補助金が給付される場合もあり、米国の半導体製造の成長が遅れを取っている背景には、主に連邦政府によるインセンティブの欠如によるものである」という主張を展開している。
米国内の新規半導体ファブ建設に総額1兆円規模の補助金
CHIPS for America法には、米国の半導体製造を促進するための一連の連邦政府による投資が含まれている。これには、新しい国内の半導体製造施設に補助金を出すプログラムへの資金100億ドルが含まれている。この法案には、新しい半導体製造装置の購入やその他の設備投資に対する税額控除も含まれているという。
米国の半導体設計および製造会社で半導体の革新を進めるには、研究が不可欠である。そうした研究開発には売上高の約5分の1が投じられており、2019年のその額は約400億ドルで、あらゆる業界で2番目に高い研究投資率だという。ただし、連邦政府による半導体研究への投資は、米国における半導体研究開発全体のごく一部にすぎず、長年にわたってGDPのシェアとして比較的横ばいだった。SIAでは、中国などは政府による研究投資を増やしており、その存在感を高めていると主張している。
米国の半導体強化のため国立研究所を設立
CHIPS for America法では、連邦政府が国防総省、全米科学財団、およびエネルギー省に重要な半導体研究の投資を行い、技術の発展を推進しようとしている。また、法案は、高度な半導体チップの研究と試作を行うための国立半導体テクノロジーセンターを設立するだけでなく、高度な半導体パッケージングに関するセンターも設立を求めており、これらの投資は、米国企業が半導体材料、プロセス技術、アーキテクチャ、設計、およびアプリケーションにおける技術的優位性を維持できるようにするために必要であるとしている。
SIAのプレジデント兼CEOであるJohn Neuffer(ジョン・ノウファー)氏は、「海外の競争相手は、自国における半導体製造に巨額の投資を行っている。米国も対抗してこの戦略的な技術において先頭を走る競争力のある国にしなければならない。連邦議会の上院と下院の両方で超党派の議員がこの大胆でタイムリーな法律の成立に向けたリーダーシップをSIAは称賛する。超党派でこの法案を成立させ、国内の半導体製造と研究を強化するよう要請する」と述べている。
「中国製造2025」に対抗する米国、第2のSEMATECHは生まれるか?
1980年代、米国の半導体産業は日本勢に対して劣勢となったため、日本に技術力で勝ち、世界一に返り咲くことを目指し、半導体製造技術の開発を目的としたコンソーシアム「SEMATECH(Semiconductor Manufacturing Technology)」を1987年に設立し、半導体製造の強化に注力した。
2010年代に入り、新たに中国勢が台頭、米国の半導体やハイテク産業を脅かそうとする中、中国は「中国製造2025」という長期計画をたてて半導体の自給自足を目差し、そのために数兆円規模の複数の国家集成電路産業投資基金(大基金第1期および第2期)を打ち立て、中国内の半導体産業を支援している。CHIPS for America法は、こうした動きに米国が対応するためのもので、新規半導体ファブ建設に補助金を付けるとともに、SEMATECHのような共同研究センターを設置することを目指すものとなる。TSMCは、米国政府の強い要請でアリゾナ州に工場を建設する意向を示したばかりだが、同社のLiu会長は米国政府の補助金なしには米国への進出は難しいと6月9日の株主総会で述べたと伝えられている。この法案を意識した発言であると思われる。