米Dell Technologies傘下のブランドであるBoomiは6月10日、調査会社である英Vanson Bourneに委託して実施したグローバル調査の結果を発表した。これによると、イノベーションの加速が緊要となっている中で日本が直面する課題として深刻化している社内人材のスキル不足が、デジタルトランスフォーメーション(DX)の阻害を顕在化させているという。さらに、スキル不足の打開策としてローコード開発のニーズが高まっているとのこと。
同調査は、北米、欧州、中東、アフリカ、アジア太平洋地域の19カ国・地域における計1200人以上(うち日本は50人)の経営者層及びIT担当の意思決定者を対象に実施したもの。 対象となった業種は、小売、高等教育、製造業、ヘルスケア(公共機関及び民間企業)、ライフサイエンス、金融、保険、公共分野の8種であり、従業員数規模は500人から3000人以上までを含む。
同調査結果の要点は、顧客体験の向上を目的としてITモダナイゼーションを推進、企業が取り組むDXやイノベーションの推進を妨げる主な要因、顧客体験の向上と従業員の生産性向上に注力、DXを推進するための手段としてのローコード開発、3年以内にイノベーションの推進は全社的な責任へと転化の5点。
ITモダナイゼーションの推進に関して、経営者層が取り組むべき最優先施策は、ITアーキテクチャの最適化が日本では60%(グローバル全体では61%)、続いてクラウドの導入が同51%(グローバル全体では56%)となり、総じて日本は低いという結果になった。
DXやイノベーションの推進を妨げる主な要因としては、社内でのスキル不足が日本では70%(グローバル全体では41%)、予算の制限が同30%(グローバル全体では33%)という結果だった。 社内でのスキル不足と回答した割合が、日本が19カ国・地域で最多だったという。
さらに、日本における回答者全体の90%(グローバル全体では94%)がITモダナイゼーションを推進していると回答したにも関わらず、グローバル全体では意思決定者の2人に1人が自社のイノベーションを競合他社と比較した際にスピードで負けていると回答している。 また、日本の30%(グローバル全体では59%)がDXを成功させるためには、テクノロジーを効果的に使うことが鍵だと回答している。
DXを担う人材不足や予算の制限により、イノベーションに向けた取り組みをより効率的かつ迅速に展開できていないという課題が露呈したと同社は見ている。
今日のDXへの取り組みにおける大きな注力点として、従業員の生産性向上が日本では53%(グローバル全体では50%)、顧客体験の向上が同40%(グローバル全体では54%)という結果だった。 顧客や従業員の変化するニーズへの迅速な対応が求められる中で、経営者やIT担当の意思決定者が共に、ITモダナイゼーションによる最大のメリットは顧客体験の向上にあると日本の回答者の31%(グローバル全体では49%)が回答している。
日本に見られる特徴として、顧客体験よりも従業員の生産性を重視しているという結果となり、DXが生産性向上の段階で留まり、実際の製品やサービスの改善にまで至っていないことがうかがえるという。
ローコード開発は、新たな傾向として注目度が高まっているとのこと。 企業ではITテクノロジーに関する専門知識を十分に持たない従業員のリソースを適切に活用し、より多くの成果を上げることを目的として、ローコード開発を可能にするプラットフォームへの投資が加速しているという。 現在、利用していないと回答した日本企業の47%(グローバル全体では50%)が、2020年末までにローコード開発プラットフォームの導入を検討している。
ITモダナイゼーション、DX、イノベーションの推進は依然として発展途上の段階であり、これらの実現に向けて全従業員が参加する全社的な取り組みへ移行する必要があると同社は指摘する。
現在、CEO自らが他のCレベル(経営幹部)と共にイノベーションを推進しているといい、日本のCEOの72%(グローバル全体では65%)、CIOの49%(グローバル全体では58%)、部門長の44%(グローバル全体では54%)によるトップダウンで推進しているとのこと。
しかし、従業員が一丸となって推進していると回答した日本企業は5%(グローバル全体では12%)にとどまっている。 その一方で、日本における全回答者の58%(グローバル全体では56%)が、今後3年以内にイノベーションの実現は、経営者層だけでなく全従業員の責任になると予測しているという。
同社のアジア太平洋・日本地域担当マネージングディレクターであるアジット・メラコーデ氏は、「現在のように市場環境が大きく変わり、企業が様々な課題に直面する時、イノベーションの速度を落とすことなく、課題に迅速に対応することが不可欠となります。ローコード開発は、人材のスキル不足を補うだけでなく、社内の限られたIT人材が生産性をあげるための時間を生み出してくれます。自社開発したオンプレミスのレガシーシステムと最新のクラウドサービスとの連携といった複雑な統合であっても、短期間かつ容易に実現できるiPaaS であれば、ローコード開発もサポートしているため、企業が抱える社内人材のスキル不足も解消してくれます。DXを推進する重要性がさらに増加しているなか、常に競合他社よりも先へ行くためには、現場の従業員によるイノベーションを誘発させる環境づくりが重要になります。そのため操作性の高いローコード開発をサポートする開発環境を整備することが、次なる進化への鍵となります」と述べている。
また、同社の最高執行責任者(COO)であるクリス・ポート氏は、「あらゆるビジネスプロセスや社内外のコミュニケーションを変革していくのは、現場にいる従業員です。現場の従業員のニーズやビジネスにおける課題に応えるために、トレーニングやワークフロー、リソース配分を見直し改善することで、業界をリードする企業へと成長していくことが可能になります」 と述べている。