欧州宇宙機関(ESA)は2020年6月4日、開発中の低コスト・再使用可能なロケット・エンジン「プロメテウス(Prometheus)」の開発状況について明らかにした。

現在は試験用の部品の製造や、部品単体での試験、また試験設備の改修などを行っており、2021年から燃焼試験を開始するという。

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    2020年2月4日に行われた、プロメテウスのガス・ジェネレイターの燃焼試験の様子。この部品は3Dプリンターで製造された (C) ArianeGroup

プロメテウスとは?

プロメテウス(Prometheus)は、ESAのプログラムの下、フランス国立宇宙研究センター(CNES)と、ロケット会社「アリアングループ(ArianeGroup)」が中心となって開発しているロケット・エンジンである。プロメテウスとは、ギリシア神話に登場する、人類に火を与えた神の名前からとられている。

プロメテウスは、ロケット・エンジンの低コスト化と再使用化の技術を実証することを目的としている。

低コストかつ再使用可能なロケットは、米国のスペースXが世界で初めて実用化に成功。現在では商業打ち上げ市場においてトップランナーとなっている。また、同じく米国のブルー・オリジンや、中国やインドなども再使用型ロケットの開発を進めている。

一方、欧州は現在、次世代主力ロケットとして「アリアン6」を開発中だが、再使用することは考えられていない。しかし、2020年代には世界的に再使用型ロケットの時代が到来する可能性があることから、プロメテウスなど、再使用ロケットの研究や実証に向けた動きが加速している。

プロメテウスは、推進剤に液化メタンと液体酸素を使用する。この組み合わせは性能面で優れているうえに、再使用性と経済性、入手性にも優れている。

エンジン部品の製造には3Dプリンターを使用するほか、 コスト目標を決め、製品の開発設計段階のすべてを通じてコストが目標内に収まるようコントロールしていく製品開発管理法「デザイン・トゥ・コスト(Design To Cost)」アプローチを採用するなどし、低コスト化を目指す。ESAによると、プロメテウスの1基あたりの製造コストは約100万ユーロになるとしており、これは現在の欧州の主力ロケットである「アリアン5」の第1段エンジン「ヴァルカン2」の、約10分の1に相当する。

そして、着陸して回収し、再使用するため、推力は可変式で、何回も再着火できる能力をもつ。また、飛行の前後に必要な整備やメンテナンスを最小化することを目指しているほか、さらに大気の厚い地上付近で動く第1段エンジンとしても、あるいは大気の薄い上空から宇宙空間にかけて動く上段向けエンジンとしても使うことができる柔軟性ももつ。

プロメテウスの検討や研究、開発は、数年前からアリアングループなどによって進められており、2017年から18年にかけては、3Dプリンターで製造されたガス・ジェネレイターの燃焼試験が行われている。

そして2019年11月に開催されたESA閣僚級会議「Space19+」において、欧州の将来の宇宙へのアクセスを競争力あるものにするため、プロメテウスの設計を実際の商業ロケットで使えるレベルにまで高めることが決定され、提案されていた開発予算の全額が提供されることになった。

現在プロメテウスの開発は、最初の試験モデル「M1」の製造に向け、ハードウェア部品の検証が始まろうとしている段階にある。試験はドイツ航空宇宙センター(DLR)のランポルツハウゼン試験場で行われる予定で、推進剤タンクの増設などの作業が進んでいる。同施設はアリアン6の第1段エンジンの燃焼試験に使われているが、簡単な作業でどちらのエンジンの試験にも対応できるようになるという。

6月末には、プロメテウスの燃焼室の最初の試験モデルが同試験場に到着予定で、燃焼試験の実施が予定されている。またM1用の燃焼室は2020年12月に納入され、組み立て後、2021年からM1の燃焼試験の開始が予定されている。

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    プロメテウスの想像図 (C) ArianeGroup Holding

プロメテウスの未来

ESAでは将来的に、プロメテウスを装備した再使用ロケット実験機「テミス(Themis)」を開発することを目指し、検討が進んでいる。2020年代の前半に試験飛行を行う予定で、また研究・開発を加速するため、CNESとアリアングループは昨年2月、「アリアンワークス(ArianeWorks)」というスタートアップ組織を設立している。

一方で、プロメテウスの開発と並行して、CNESとDLR、そして日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)との国際協力により、「カリスト(CALLISTO)」という再使用ロケット実験機を開発する計画も進んでいる。

カリストはESAのプログラムではなく、ESAが開発するプロメテウスとも、現時点では切り離されている。推進剤も、メタンを使うプロメテウスとは異なり、液体酸素と液体水素を使う。

現在JAXAでは、カリストのさらに前段階となる小型実験機「RV-X」の研究が進んでおり、2018年にはエンジンの地上燃焼試験に成功。今後、2020年度中に高度100m程度まで上昇、ホバリングしながら水平移動後、着陸する飛行試験が予定されている。その成果はカリストの設計に反映されるほか、カリストのエンジンはRV-Xと同型のものを使うとしている。

カリストは2022年度にギアナ宇宙センターにおいて、高度約40kmまで飛行する試験を行うことが計画されている。

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    カリストの想像図 (C) CNES

また、DLRなど欧州の複数の機関や企業がパートナーシップを結び、「RETALT」という垂直離着陸型の再使用ロケットの研究も進むなど、欧州ではロケットの再使用に関する複数のプロジェクトが進んでいる。

欧州では2025年ごろを目処に、カリストとテミスなどの成果を基に、新世代の主力ロケットについて、従来のような使い捨て型のロケットとするのか、それとも再使用ロケットにするのかを判断するとしている。

また日本にとっても、将来のロケットをどうするかが大きな課題となることは間違いなく、カリストを通じてこの動きにかかわることもあって、その動向には注目が集まる。

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    欧州の将来のロケットの想像図 (C) ArianeGroup

参考文献

ESA - ESA moves ahead on low-cost reusable rocket engine
ArianeGroup and CNES launch ArianeWorks acceleration platform - ArianeGroup
基幹ロケットの再使用化による打ち上げコストの低減 - 1段再使用に向けた飛行実証(フェーズ1)-|JAXA|研究開発部門
1段再使用飛行実験(CALLISTO)プリプロジェクト|JAXA|研究開発部門
第50回宇宙産業・科学技術基盤部会 - siryou1-3.pdf