東芝は6月2日、工場などの製造装置やインフラ設備における異常を機械学習により検知・診断する技術において、時系列波形データをベースとした異常の見逃し及び誤検出の抑制と、異常と判断した理由がわかる高い説明性を両立させたという新たなAI(人工知能)技術である「Learning Time-series Shapelets for optimizing Partial AUC」(LTSpAUC)を開発したと発表した。
AIによる異常検知では、専門家が時系列波形データを確認して原因究明や対策立案を行うことが基本であり、AIの判断結果を専門家が理解しやすい高い説明性が求められるとしている。
同社は、時系列データをAIにより正常または異常に分類するクラス分類の手法を基に、これらを両立するという同技術を開発した。
同技術は、正常または異常といったクラスを自動分類する分類器の学習に加えて、クラス分類に有効な部分波形パターンを同時に学習する手法を採用したという。
今回この手法に、新たに見逃しまたは誤検出を特定の範囲に抑えた分類性能であるpAUC(partial Area Under the receiver operating characteristic Curve)を最大化する学習を導入したとのこと。
例えば、異常発生を避けるために見逃しを抑制する場合は、トレードオフの関係にある誤検出を許容できる数%以下の範囲に収めた上で、見逃しを最大限抑えるために必要な複数の波形パターンを学習する。 これにより、従来は困難だった見逃しまたは誤検出を低く抑える異常検知性能の向上が可能になるという。
加えて、従来手法では学習できなかった、稀にしか発生しない異常波形パターンであっても漏れなく学習可能になったとのこと。 さらに、同技術では異常と正常を分類した部分波形パターンを提示できることから、AIが正常または異常と判断した根拠を波形パターンから確認可能としている。
公開時系列データセットを用いた性能評価では、見逃しまたは誤検出を低く抑えた状態で、従来技術に比べて異常検知性能を示すpAUCの性能が約7%優れていることを確認したという。
また、公開時系列データセットに含まれる半導体製造分野のセンサデータや、搬送器のローラーを劣化させる実験で得たセンサデータに対して、pAUCの性能向上に寄与する部分波形パターンを発見でき、高い説明性が両立できていることを確認した。
同社はCPS(Cyber Physical Systems)テクノロジー企業となることを目指しているといい、これまでも、時系列波形データを使用して製造現場やインフラ分野に特有の問題を解決する多様なAIの研究開発を推進してきたという。
今後、装置や設備の異常を精緻に検知・診断する技術として同技術の性能をさらに高め、製造現場やインフラなどの多様な装置や設備への適用を目指し、故障予知や保守業務の効率化につながるAI技術の開発を進めていくとしている。