新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の世界的な感染拡大は、消費者の日常生活やビジネスパーソンの働き方に大きな影響を与え、それに伴い企業活動についてもマーケティング活動のみならずビジネスのあらゆる側面に大きな変化をもたらしている。今後パンデミックが終息したとしても新型コロナウイルスが消滅したとみなすことはできず、私たちの生活や企業活動は感染症のリスクと共存する“アフターコロナ”への対応が不可欠となる可能性が高い。そうしたなかで、ビジネスの持続可能性を担保するために、企業のマーケティング活動はどのように変化していかなければならないのか。
Arm Treasure Dataがオンラインで開催したビジネスセミナー「PLAZMA 11 ~DXがビジネスにもたらす機敏さ(アジリティ)としなやかさ(レジリエンス)~」の基調講演において、オイシックス・ラ・大地の執行役員 Chief Omni-Channel Officerで、顧客時間 共同CEOの奥谷孝司氏と、三井住友カード データ戦略部長の白石寛樹氏が『「ウィズコロナ」「アフターコロナ」時代のマーケティングとは何か?』というテーマで語り合った。
データから読み解く、コロナ禍によって変化した消費行動
では、新型コロナウイルスの感染拡大によって消費行動はどのように変化したのか。外出自粛、飲食店の休業などによって、ネット上では「デリバリー」や「UBEREATS」の検索トレンドが伸びるなど、消費者の消費行動は大きく変化している。それを、三井住友カードの加盟店向けデータ支援サービス「Custella」の統計データ分析をもとに、白石氏が解説した。
まず紹介したデータは、新型コロナウイルスの感染拡大が本格的に拡大する直前から3月までのカード決済に関する統計データだ。白石氏によると、キャッシュレス決済還元事業による上振れを排除した状態で比較して、2020年3月は昨年比で決済人数、決済件数、決済金額すべてでマイナスとなっていたという。ただ、さまざまな業種で決済件数や金額が減少するなか、生活用品の購入や生活変化に由来する決済は増加したのだそうだ。
「現在キャッシュレス決済を推進していることも影響していると思うが、感染リスクを回避するお客様が、感覚的に現金よりも接触リスクの少ないカード利用をしているのではないかとも考えられる」(奥谷氏)
「コロナ禍による経済へのインパクトは大きい。このデータを毎日見ていて思うのは、近年キャッシュレスへと消費者の決済手段が大きく変化してきた中において、このコロナ禍の影響で全く違う現象が起きている」(白石氏)
そして、このデータを業種別に細かく見ていくと、コロナ禍の影響はより鮮明になってくる。昨年との比較を業種別に比較してみると、3月の決済金額が昨年比でプラスになったのはわずか9業種。42業種は昨年比でマイナス。なかには、マイナス幅が100%に迫る業種も存在していることがわかる。さらに、1回あたりの決済単価は例年3月は上昇する傾向にあるのだが、今年はほぼ横ばいで推移しており、新生活シーズンに合わせた季節性の購買行動も減少していることも示唆しているという。
また、増加率、減少率を業種別に見たデータでは、スーパーやホームセンターといった生活必需品を買い求める人が集まる業種では対前年比で堅調に増加している一方、いわゆる“不要不急”と看做されてしまったレジャー、観光、運輸などの分野は減少率が高く、特に旅行代理店はマイナス91.7%、レジャー施設はマイナス97.5%と壊滅的な影響が出ていることが伺える。
「仮に第2波が今後来ると、同じような消費行動の特徴になる可能性は高い。重要なのはこうしたデータから現象を理解し、次の消費行動を予測することではないか」(奥谷氏)
奥谷氏は、こうしたデータについて「“何を読み取るか”が重要だ」としたうえで、「右上の業種はリアルなタッチポイントだけで増加しているわけではなく、デジタルのタッチポイントも寄与しているだろう。特に衝撃的なのは、左下(減少幅の大きい)の業界は不要不急と看做される業界というだけでなく、デジタルシフトが遅れている業界とも言えること。体験価値がリアルに寄っているという特性はあるものの、(コロナ禍は)業界全体で今後のビジネスの在り方を考えていくきっかけになるのでは」と語った。
一方、消費者の購買行動を性別・年齢別に見ると、興味深いデータが見えてきたという。2020年1月から3月の決済件数シェア推移を性別、年代で比較すると、ECモール・通販の業種で高齢層のシェア変化が大きく、高齢者が実店舗での購買からネット通販へとシフトしたことが顕著に見られたのだそうだ。
「これまで難しいと言われていた高齢者も含めて、消費行動のデジタルシフトが大きく進んだといえるのではないか」(奥谷氏)
ここまで白石氏が紹介してきたデータは、一般生活者の消費行動の特徴について、自分の実体験に取らしても納得感のあるものだ。「多分、そうなのだろうな」という感覚が、データによって裏付けられているとも言える。例えば、4月に入り緊急事態宣言が発出されると、いわゆる“巣ごもり消費”というムーブメントが生まれた。家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」の世界的な品薄は記憶に新しいところだ。それを裏付けるように、白石氏の披露したデータでも、4月に入ると玩具・娯楽品の消費が大きく伸びていることがわかる。
こうした消費変化について、白石氏は「今後のデータを継続的に検証していくことが重要になる」と指摘。コロナ禍をきっかけにして注目された業界、需要が高まった業界、そして厳しい状況に立たされた業界が今後どのような動きを見せていくのかをデータから紐解いて検証していくことは、消費行動の特徴を理解する上でも重要だと言えるだろう。
また奥谷氏は、この玩具・娯楽品の消費についてオンラインでの消費が高まっている点に注目。店頭での集客や売上は苦戦するなかでネットは活況という消費者のチャネルシフトが生まれていることについて、「小売事業者はオンラインチャネルの脆弱性や物流の課題などを見直し、デジタルにおける顧客との繋がりをしっかりと作っておくことがますます重要になってくる」と指摘した。