半導体市場動向調査会社である仏Yole Développementは、自動車向け人工知能(AI)半導体チップ市場は2019年に1.41億ドルであったが、2025年には約20倍の27.54憶ドル規模に急速に成長するとの予測を発表した。
2025年の27.54億ドルのうち9割(約25億ドル)はADAS向けであり、同社では2025年には、販売される新車のほとんどに何らかの形のADAS向けAIチップが搭載されると見ている。また、自動運転向けの割合は2019年には35%であったものが2025年には10%に減少するが、絶対額としては6倍近く増える見込みだという。
また、2020年の現在、ADAS用のAIチップのほとんどがGPUである。しかし今後、VPUが徐々に増え、2025年にはVPUが75%、GPUが21%。FPGAが3%、APUが1%の採用割合になるとYoleは予測している。
半導体サプライヤと自動車メーカーの協業体制は3種類
Yoleによると、自動車メーカーが自動運転を目指した半導体サプライヤとの協業体制は以下の3種類に分類できるという。
- Tesla:半導体メーカーには頼らず、独自にAIチップとソフトウェアを設計し、自社独自の自動運転システムを自車に搭載する。つまり自動車メーカーがファブレス半導体設計会社も兼ねるということである。もしも独自開発に成功したら、自動運転車開発競争で独り勝ちする可能性があるとYoleは見ている。
- トヨタ自動車、日産自動車、GM、Ford、BMW、Volkswagen、Mercedes Benz、Audi、Volvo:AIチップは半導体メーカーから供給を受けるが、それを基に各社独自の自動運転システムを開発する。
- 三菱自動車、PSA、FCA:自社では自動運転システムを独自に開発せず、半導体サプライヤの提供してくれたシステムを採用する。他社に頼り切っていると自動運転車開発競争で敗者になる可能性があるとYoleは見ている。 新型コロナウイルスの感染拡大により、工場閉鎖や需要沈滞で自動車メーカーの業績が著しく悪化し、自動運転を目指す研究費が削減され、計画に後れが出る可能性が高くなっているとYoleは指摘している。
最終的に自動運転をめざす運転支援の各レベルで必要な要素技術を手掛ける半導体企業は以下のとおり。
- MCU:Infineon、NXP (レベル1/2/2+/2++)
- VPU:東芝、TI、Ambarella、Mobileye (レベル1/2/2+/2++)
- FPGA:Intel、Xilinx (レベル2+/2++)
- 統合プラットフォーム:ルネサス、NVIDIA、Tesla (レベル3/4/5、無人ロボット車)
また、ADASには、各種のカメラ、Radar、LiDAR技術が必要である。
NVIDIAのAIチップセットモジュールを分解
Yoleの子会社で半導体製品分解を得意とするSystem Plus Consultingは、自動運転向けとして定評あるNVIDIAの既存車載AIチップセットモジュールであるTegra K1 Visual Computing Module(VCM)を分解し、その写真を公開している。
Tegra K1は2014年に発表された192個のCUDAコアを搭載したSoCで、同モジュールは複数の自動車メーカーの自動運転車向けに出荷されており、交通信号認識、歩行者検知、衝突警告、光検知、車線認識など自動運転のために活用されているSiPである。同じパッケージ上にSK Hynix(あるいはSamsung Electronics)のDDR3 SDRAM、Cyprss(Spansion)のフラッシュメモリ、NXPの受動素子(ダイオードなど)が搭載されている。
市場に出回っている一般的なSiPとは異なり、半導体チップ実装には、封じ用にエポキシモールド材を使用していない点が特徴的で、各チップは、PCB基板にはんだ付けされており、システムの上部に放熱板が接着されている。