東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC、東京都文京区)は2020年5月28日、日本でベンチャー企業を育成するオープンイノベーション推進1号投資事業有限責任組合(略称:AOI1号ファンド)を設け「その投資先として"カーブアウト"型ベンチャー企業2社を選び、投資した」と発表した。

今回のAOI1号ファンドは、東大IPCと三菱UFJ銀行、三井住友銀行の3社が出資して設立したもので、初年度は27.5億円で立ち上げた。今後は投資活動を通して、さらに金融機関や事業会社からの追加出資も募る構えという。同ファンドの投資期間は15年間の予定である。

このAOI1号ファンドの投資対象は、既存の大手企業から分離した"カーブアウト"型ベンチャー企業や技術事業化に向けたJV(Joint Venture:企業共同体)、プレシードのベンチャー企業だと説明する。今回は「東大IPCの設立時から掲げてきた"カーブアウト"型ベンチャー企業の2社への投資を実施した」と発表した。

この"カーブアウト"型ベンチャー企業への投資については、日本の既存の大手企業から独創的な新規事業が生まれにくい実情を考慮し、「その既存企業からある程度、切り離して独立性が高い経営判断ができる"カーブアウト"型ベンチャー企業を育成し、日本の既存企業からのイノベーション創生を増やすための投資だ」と説明する。今回は、大手製薬会社の武田薬品工業から2018年1月にカーブアウトしたファイメクス(FIMECS.Inc、神奈川県藤沢市)とベビーケアやヘルスケア大手のユニ・チャームから2016年12月にカーブアウトしたOnedot(万粒、東京都目黒区)の2社に投資を行った。

AOI1号ファンドの投資の特徴は、2社へのそれぞれの投資を、他のベンチャーキャピタルなどと共同に投資する協調投資を行っている点にある。ファイメクスには、同ファンドに加えて京都大学イノベーションキャピタル(京都大学iCap、京都市)、独立系ベンチャーキャピタルのANRI(東京都文京区)が協調して総額5.5億円を投資した。ファイメクスは、タンパク質分解誘導剤などによる新規医薬品の研究開発を実施している。

Onedotには、同ファンドに加えて、日本生命、住友商事、みずほキャピタルなどが10.5億円を投資した。同社は、中国で展開している育児動画メディア「Babily」のアプリケーション開発などを進めている。

AOI1号ファンドの投資対象の1つには、「今後は東大IPCが育成しているプレシードベンチャー企業22社(2020年5月時点)も対象となる可能性もある」という。

2016年1月に東大が417億円の中から会社設立費などを出資して設立した東大IPC、当初は既存のベンチャーキャピタル(VC)が設けた投資ファンドに投資する"ファンド・オブ・ファンド"を実施する協創プラットフォーム開発1号投資事業有限責任組合(協創1号ファンド)を2016年12月に250億円で設立し、同投資ファンドを通して、これまでに15社に投資済みの模様である(図1)。

  • 東京大学IPC

    東大IPCが運用する2つの投資ファンド (作図は東大IPC)

筆者注:東京大学などの4つの国立大学は、100%子会社のベンチャーキャピタルを傘下に持っている。この背景には、安倍晋三内閣が2014年6月14日に閣議決定した日本再興戦略の中に"大学改革"の項目を入れ、「今後10年間で、20件以上の『大学発新産業創出』を目指す」という目標を設定したことがある。この中には、その達成手法として「国立大学による大学発ベンチャー支援ファンド等への出資を可能とする」と書かれている。
この前段階として政府は、2012年度の補正予算で、東大などの4大学に合計1000億円を出資した。内訳は東北大に125億円、阪大に166億円、京大に292億円、東大に417億円となっている。京大イノベーションキャピタル(京都大学iCap)も京大が100%子会社のベンチャーキャピタルとして設立したものである。