半導体市場動向調査会社である米IC Insightsは、毎年5月に中国国内でのIC生産規模および中国IC市場規模に関する調査報告を行っているが、2020年も5月21日付(米国時間)で、「中国の半導体自給率は目標として掲げる『中国製造2025』の1/3しか達成できず、しかもその過半は外国資本の中国工場に依存する」との予測結果を公表した。

「中国製造2025」とは、中国政府が2015年に発表したハイテク産業育成策で、その中で、これまで輸入に頼り切ってきた半導体の国内自給率を2025年に70%まで高める目標を掲げている。

2024年の中国IC生産額は国内市場規模の21%

2019年の中国内におけるIC生産額は、中国のIC市場全体(1246億ドル)の15.7%を占めた(金額にすると約195億ドル)が、2014年の15.1%からはわずかな上昇にとどまっている。この比率について、IC Insightsでは2024年には5ポイント増となる20.7%まで上昇すると見ている。

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    中国の国内IC市場規模と中国国内IC生産額の推移 (出所:IC Insights)

2019年の中国製半導体の6割は外資系が生産

中国は2005年以降、世界最大のIC消費市場となったが(2019年は世界全体で3584億ドル、そのうち中国市場は1246億ドル)、中国内でのIC製造はそれにまったく追従できておらず、かつ中国におけるIC製造の多くが外資系半導体メーカーの工場が担っている点に注意が必要であるとIC Insightsは指摘している。

2019年の中国で製造されたICは約195億ドルで、そのうち中国に本社を置く地元半導体メーカーの生産額は76億ドルほどで全体の38.7%程度であり、残りの61.3%はTSMC、SK Hynix、Samsung Electronics、Intelなどといった中国にIC生産ファブを持つ外資系企業を占めている。

IC Insightsでは、中国を拠点とする地元企業が製造した76億ドルのICのうち、約18億ドルがIDMによるもので、残りの58億ドルがSMICなどのファウンドリが製造したものであると推定しており、これらによるIC生産額は中国市場全体の6.1%にしか過ぎないとしている。

IC Insightsが予測するように、中国におけるIC製造(外資系を含む)が2024年に全体の20.7%となる430億ドル規模に上昇したとしても、2024年の世界のIC市場予測は5075億ドルで、占有率は8.5%しかない。中国のファウンドリの一部の売り上げが大幅に上昇したとしても、その規模は2024年の世界IC市場の約10%ほどにしかならない可能性があると同社は指摘している。

また、中国におけるIC生産の成長率は高いものの、金額が全世界の5.4%(2019年)ほどと比較的小規模であり、今後、中国の新興半導体企業であるYMTCやCXMTなどがIC生産を大規模化したとしても、外資系半導体企業の生産能力が2024年段階でも全体の50%を占めるとの見方を示している。

重要になってくる中国企業の動きに対する実態調査

長引く米中貿易戦争に対し、中国の政府当局者や企業の代表たちは、現在、中国に供給されている米国をはじめとする外資系メーカーが手掛けるICへの依存を減らすために、中国内のICビジネスを迅速かつ効率的に成長させることを掲げている。

こうした動きに併せる形で、2019年、いくつかのメディアや調査会社から、「中国の半導体製造の勢いはもはや止まらない。特にメモリはすぐにSamsung Electronics、SK Hynix、Micron Technologyの3大メモリサプライヤの出荷数量と技術レベルに追い付くだろう」という主張を掲げていたが、こうした情報が出回った際には、実際にどうなったのかといった実態をしっかりとチェックする必要があるとIC Insightsでは指摘している。

例えば中国初の地場DRAMサプライヤCXMTが2019年第4四半期に限定的ながら最初のDRAM製品の生産を開始したというニュースが流れたが、現実をチェックしてみると、確かにCXMTには数千人の従業員がおり、年間約15億ドルの設備投資が行われている模様だが、Micron、SK Hynixにはそれぞれ3000名を超す従業員がおり、Samsungに至っては4万人を超す従業員が従事していると推定され、さらに2019年の3社合計の設備投資額は397億ドルであり、このようにしっかりと比較する必要があるとする。

非メモリメーカーが育っていない中国

中国は現在、半導体メモリの製造に向けて大規模な投資を行い、潜在的な特許紛争を回避するためにいくつかの巧妙な設計手法を開発したが、IC Insightsでは、今後10年間で大きな競争力を持つメモリ産業が育成され、中国内のメモリ需要を満たせるかどうかについて懐疑的な見方を示す。同社は、中国内のICニーズに対して自給自足できるようになることに関して多くの人が見落としている課題の1つに、メモリ以外のIC(非メモリ)メーカーが育っていないことを挙げる。

現在、アナログ、ミクスドシグナル、サーバMPU、MCU、または特殊ロジックICの主要メーカーが中国には存在しない。さらに、2019年の中国IC市場の半分以上を占めたこれらのIC製品セグメントは、長年の経験と数千人規模の従業員を擁する外資系サプライヤが高いシェアを有しているとIC Insightsは指摘しており、こうした市場で中国勢が競争力を持てるようになるのは数十年先になるとしている。

10年後でも難しい中国の半導体自給自足

米国政府は、米中貿易戦争の1つとして、Huaweiに対して、米国製の半導体製造装置で製造された半導体の輸出禁止措置を行うなど、米国や日本がリードしてきた高性能半導体を製造するために必要な製造装置を中国勢が活用することが困難になってきている。そのため、IC Insightsでは、中国が半導体を自給自足で賄うために大きな進歩を遂げることは本質的に困難であろうという見方を示しており、今後10年以内での自給自足の目標達成は難しいだろうとしている。

なお、IC Insightsは過去からぶれることなく、終始一貫、中国のIC産業に対して厳しい見方を取り続けている。また、多くの米国の半導体企業にとって、売上高を国別で見ると中国市場が最大地域となっているところが多い。そのため、米国の半導体企業は、米中貿易戦争下であっても、トランプ政権に忖度する余裕などなく、生き残るために世界最大の中国市場を重視している。こうした事情もあり、中国の半導体市場は急拡大する一方で、中国内における半導体の増産体制が間に合っていないといった事情が見え隠れしている。