はじめに
スマートウォッチ市場は、依然として拡大が続いており、非常に多くの新しい機能やアプリケーションが搭載されています。パーソナルヘルスやフィットネス製品には、トラッキング、アラート、コネクティビティなどの新機能が内蔵されています。スマートウォッチ制御の自動車の増加は、緊急アシスタンスや車両状態更新などの機能追加によって進められています。防水および耐衝撃機能や、より明るいディスプレイの搭載が、世界的な市場の拡大を牽引しています。さらに高精細カメラ、GPSレシーバ、小型でパワフルなスピーカー、大容量ストレージ、およびその他の新しい機能も間もなく登場します。
しかし、より小さなフォームファクタに対する要求によって電子回路の小型化の課題が高まり、より長いバッテリ寿命の課題も増えます。本稿では、小さいスペースでより高効率の給電を行うとともに、超小型ウェアラブル機器のバッテリ寿命の延長を可能にする、新たなパワーマネージメントシステムを紹介します(図1)。
プログラマブルSIMOの登場
占有面積が最小限で、バッテリチャージャやスマートウォッチ各ブロックへの安定した給電をすべて1つのチップに内蔵した、効率的なソリューションが理想的とされます。
3つのスイッチングレギュレータを実装した単一インダクタマルチ出力(SIMO)バックブーストコンバータと1つのインダクタの組み合わせは、占有スペースをさらに削減します。各レギュレータの回路構成はプログラマブルとなっており、バッテリ電圧範囲内およびそれ以上の電圧用のバックブースト動作に対応するとともに、バッテリ電圧以下の電圧用に(本質的にバックブーストより効率的な)バック動作も提供します。
加えて、高周波動作によって小型インダクタの使用が可能となり、必要なスペースをさらに最小化します。2つの内蔵LDOはノイズに敏感な負荷用または負荷スイッチとして使用されます。図2は、高集積SIMO PMICを示しています。簡略化のために、外付けの受動部品は示していません。
SIMOの電力ツリー
図3はシステム電力ツリーで、各レギュレータの出力電圧、負荷電流、効率、および消費電力(PD)を示しています。5つの負荷のうち3つは高効率SIMOスイッチングレギュレータによって直接給電されます。第4および第5の負荷用のLDOもSIMOによって給電され、低ドロップアウトによって90%の効率を実現します(2Vから1.8V)。全体的なシステム効率は86.2%という優れた値となっています。
SIMOコンバータ
図4は、SIMOコンバータのブロック図を示しています(インダクタ以外のすべての部品が内蔵されています)。スイッチングレギュレータは最小限の損失で電力を供給し、巧妙なアーキテクチャによって各スイッチングレギュレータ用に1つのインダクタを備える必要がありません。
インダクタ電流共有
このヒステリシスを備えた不連続電流モード(DCM)レギュレータでは、インダクタ電流が常に0になるためインダクタを共有可能となります。
バックブーストモードでは、インダクタはM1およびM4が「オン」のときVIN/Lのレートで電流を増大させます。設定された制限に達すると、図5に示すように、電流はM2およびM3_xトランジスタを介して選択されたSBBx出力に供給されます。
バックモードでは、M1およびM3_xがオンになり、電流を出力に供給しながら、インダクタの電流は(VIN - VSBBx)/Lのレートで増大します。インダクタ電流が設定された制限に達すると、M2をオンにしてM1をオフにすることによって、インダクタからのエネルギーが出力に供給されます。
バックモードではサイクル全体にわたって電流が出力に送られるのに対して、バックブーストではM2およびM3_xトランジスタがオンのフェーズにのみ電流が出力に供給されることに注意してください。より多くの電流(サイクル当り)が出力に供給されるため、バックコンバータは最も効率的なアーキテクチャとなっています。
出力への電流供給は、それぞれの出力エラーコンパレータによって要求された順番で行われ、これはファーストイン・ファーストアウト(FIFO)とも呼ばれます。
図5に示すように、3つのスイッチングレギュレータは一度に1つずつ電流が供給され、インダクタ電流は0Aになるため、クロスレギュレーションの問題が防止されます。
より長いバッテリ寿命をより小さなスペースで実現
MaximのPMIC「MAX77654」(WLP、2.79mm×2.34mm×0.5mm)は、SIMOスイッチングレギュレータおよび内蔵LDOによって、標準的な実装より41%少ないPCBスペースで、最小限の損失で電力を供給を可能としました。図6では、すべてのPCBの能動および受動部品を示しています。
全体的な基板占有面積は19.2mm2です。
効率
必要に応じていつでもバックモードの設定が可能であることから、効率の特長がさらに増大します。図7で、SIMOバック動作はバックブースト動作に対して10%優れた効率を示しています。プログラマブルなインダクタピーク電流制限(IP_SBBX)は0.5Aに設定されています。
標準的なパワーマネージメントの実装
標準的なスマートウォッチのパワーマネージメントシステムの実装を図8に示します。PMICはバッテリチャージャ、マイクロコントローラに給電するバックコンバータ、およびディスプレイに給電するLDOを実装しています。第2のIC(デュアルLDO)は、センサーおよびBluetoothに給電します。簡略化のために、外付けの受動部品は示していません。
SIMOの電力の特長
標準的な実装の完全な電力ツリーを図9に示します。この標準的なスペースに制約のあるソリューションでは、LDOを多用する結果として全体的な効率は73.8%です。
2つのソリューションの電力性能の比較を表1に示します。
SIMOソリューションの優れた効率によってバッテリ消費が低減するとともに、より広い動作範囲(最小2.7V)によってスマートウォッチの非接続動作時間が延長されます。
SIMOのサイズの優位性
図9に示した標準電力フロー図のすべての能動および受動部品が、図10のソリューション図に含まれています。
この標準的なウェアラブルソリューションの占有基板面積は約32.4mm2で、SIMOベースのソリューション(19.2mm2)より69%多くなります。ここでは、比較的低レベルの集積、複数のLDOの使用、およびより大型の受動部品によって、スペースと電力の両方の点で非効率なソリューションとなっています。
結論
本稿では、SIMOアーキテクチャベースの高集積PMICでスマートウォッチに給電することの特長について解説しました。PCBスペースと消費電力の両面で非効率的な、低レベルの集積を備えた標準的ソリューションと比較しました。独自のSIMOアーキテクチャを用いたPMICは、より小型のスペースでより多くの電力を効率的に供給し、スマートウォッチやその他の小型ポータブルアプリケーションのバッテリ寿命の延長と形状の小型化を可能にします。
著者プロフィール
Nazzareno (Reno) RossettiMaxim Integrated
アナログおよびパワーマネージメントの専門家であり、書籍の執筆者でもあり、この分野で複数の特許を取得している。
トリノ工科大学(イタリア)で電気工学の博士号を取得。
Tran Derek
Maxim Integrated
アプリケーションエンジニア
単一インダクタマルチ出力(SIMO)製品ファミリを含む、常時オン低電力PMICポートフォリオを担当
サンノゼ州立大学で電気工学の理学士号を取得