半導体をめぐる米中の対立が激化しているうえに、新型コロナウイルスが世界的に蔓延し、各国が入出国を厳しく規制する中、Samsung Electronicsの事実上の最高責任者である李在鎔(イ・ジェヨン)副会長をはじめとする経営陣が5月18日、中国陝西省西安の同社のNANDフラッシュメモリ量産拠点を電撃訪問、製造現場を視察したことを韓国をはじめとするアジアの複数のメディアが報じている。
新型コロナの渦中でも中国西安のNAND工場を拡張
今回の李副会長の訪中について、新型コロナの収束直後の最初の海外出張国として中国を選び、電撃的に訪問した、として韓国の多数のメディアでは驚きをもって伝えている。
李副会長は今回の出張で計3回のPCR検査を要求され、陰性の結果が出るまで韓国および中国政府が用意した施設内に隔離されたという。そうまでして中国へ訪問した同氏は、現地で「新しい成長力を作るためには、今後の大きな変化に先んじて対応しなければならない。もはや残された時間はなく、時を逃してはならない」と語ったと伝えられている。 中国では、いよいよ複数の現地資本が半導体メモリを量産しようとしており、Samsungは、新型コロナウイルス感染拡大の状況にあっても、なんとしても中国西安工場の生産能力増強を計画通りに実現し、格差戦略で半導体メモリ世界トップの座を死守する決意の表れととらえられている。
Samsungの中国のNANDフラッシュメモリ量産工場である西安工場は、2014年に稼動を開始し、新型コロナウイルス感染拡大の中でも稼働を続けてきた。2020年3月には第2工場(第1期)の稼動を開始しており、現在は増産に備えて第2期(製造ライン拡張)工事を行っており、2021年のフル稼働を予定している。現在、西安第1工場では月産12万枚規模、第2工場(第1期工事で完成した製造ライン)では同6万5000枚規模で生産しているが、第2期工事が完了すると、さらに同6万5000枚規模の生産能力が加わることとなり、西安工場全体としては最終的に2021年に月産約25万枚の生産体制を構築することになる。西安工場のNAND製造ラインには2014年以来、累計150億ドル規模の投資が行われている。李副会長は、新型コロナウイルスの世界的蔓延下でもこの計画を予定通り断行する決意をしているようだ。
李副会長は、中国陝西省地方政府トップとも会談し、従来からの半導体メモリだけではなく、ロジック半導体(システムLSI)、バッテリー、バイオ分野でも、今後、同省との協力範囲を広げることで合意したという。
中国工場の増産の一方で米国からも工場の増設要請
李副会長は、米国政府からテキサス州オースチンのレガシー化している同社の半導体工場について、先端デバイスを受託生産できるように投資を行うように求められている件に関して、中国出張の帰国時の韓国金浦国際空港にて「悩んでいる」とだけ報道陣に答え、足早に立ち去ったという。Huaweiの受注生産を取りやめるとともに米国政府の米国内での工場建設要請を受け入れたTSMCのような米国側に舵を切る明快な判断ができない悩みをSamsungは抱えているようである。
Samsung、西安第2工場拡張に向け300名を追加派遣
Samsungは、李副会長の帰国を待つかのように5月22日、西安半導体第2工場第2期工事のために必要な韓国本社および協力会社の技術者300名をチャーター機で派遣した模様である。
この飛行機には、西安の三星SDIバッテリー工場向け技術者30名も同乗したとされるが、これら人員の移動は、中国と韓国の両政府が4月におこなった局長級協議によって5月1日に新設された「韓中企業迅速通路(入国手続きの簡素化)」制度が利用されたという。
企業の社員に限って出国前および入国後にそれぞれ新型コロナウイルスの検査を受けて陰性判定が出れば、現地で14日間の隔離義務を免除する措置である。4月にもSamsungは西安に200名の技術者を派遣しているが、そのときは、まだこの制度ができる前の入国の全面的な禁止時期であったので、中国政府に例外的な「特別入国」措置を要請して隔離措置なしに派遣する対応をとっていた。
Samsungは、西安第2工場の拡張・増産体制を計画通りに行うため、新型コロナウイルスの渦中で、中国政府に特別な許可を得て累計500名の技術者や協力会社社員を派遣したことになる。同社の焦りと意気込みが見え隠れする取り組みと考えられる。