リアルからバーチャルへ一気にシフト

新型コロナウィルスの感染拡大が世界に広がり、世界中の人々の生活と産業に大きな変化を及ぼしている。外出制限で巣ごもり生活が続く中、オンラインショッピングから始まり、家でのオンラインシアター、オンラインゲーム、オンライン授業などなどすべての生活に紐づく活動がネットを通して可能になった。ビジネスでもリモートオフィス、リモート会議、リモート飲み会やオンラインセミナーなどなど、リアルなコミュニケーションからバーチャルな世界での生活に一気に変わった。さらには大規模イベントも次々と中止された結果、バーチャルイベント、バーチャル国際会議、バーチャル展示会などへのシフトも始まっている。

新型コロナウィルスの感染拡大が最初に確認された中国では、2020年1月23日の武漢封鎖に続き、中国全土で人の動きが厳しく制限され、産業界でも業界関係者が集まる会議などはまったく出来ない状況になった。しかし、ネットを使い業界サプライチェーンに関わる上流から下流の関係企業が集まり、現状報告と対応策などをディスカッションするオンライン会議が、早くも2月から開催され業界一般にも公開されていた。

会議のテーマはパネル製造や関連部材への影響などをシェアするだけでなく、将来に向けた様々な技術開発テーマに対するディスカッションもあり、感染拡大の状況を感じさせない議論がネット上で行われていた。筆者もこのネット会議を当初からフォローしているが、オンライン会議の数はどんどん増えており内容も豊富になっている

国際会議や展示会などの大規模イベントも、2月以降、世界中で延期や中止が相次いでおり、少なくとも2020年の夏頃までの大規模イベントの開催は難しい状況にある。そのような状況下で、活用され始めたのがバーチャルイベントである。ネットを活用したオンライン会議もその一種にはなるが、国際会議や展示会などのリアルなイベント開催に代わるものとして、バーチャルイベントが活用され始めている。

ディスプレー関連で一例をあげると、毎年米国で開催されている世界最大のディスプレーの学会「SID」は当初2020年6月にSan Franciscoで開催される予定であったが、一旦8月に延期された後、最終的にはバーチャル会議として実施される事が、5月上旬に通知された。具体的な実施方法は検討中の様であるが、すでに中国ではSID China(SIDの中国支部)が「オンライン技術検討会」としてSIDのセッション構成を模した形での会議を開始しネット上での議論を進めている。

筆者が関係する中国のイベントでも、毎年開催してきた「世界ディスプレー産業春期業界動向発表会」や国際的な会議「DIC(Display Innovation Convention)」の併設展示会で、バーチャル会議やバーチャル展示会を予定している

リアル世界の消費落ち込みでディスプレーの勢力図が変化

3月に入って新型コロナウイルスの感染拡大が世界的な問題となる中、Samsung Displayは、液晶ディスプレー(LCD)の工場を閉鎖して、新技術である量子ドット(QD)を搭載したディスプレーの開発に注力することを、事業部長名義で顧客に通知した。2020年中に韓国の生産ラインと中国の蘇州の大型LCD生産ラインを停止してLCDパネル製造からは完全撤退し、TVセットに必要なパネルは鴻海グループや中国のパネルメーカーから調達する方針に事業戦略の舵をきった。

同様にLG Displayも、2020年中にLCDの工場を閉鎖することを年初に公表している。これらの決定は、新型コロナウイルスの感染拡大が生じる以前の2019年からの既定路線で有り、その背景には爆投資を行った中国にLCDパネルの主導権を握られてしまい、もはやLCDでは利益を出せないという状況がある。この結果、2022年には、中国のLCDパネル生産量は世界の80%強を占めて中国の寡占状態になる見通しである(図1)。

2020年5月初旬時点で、新型コロナウイルスの影響で市場の需要が大きく落ち込んでおり、業界からはこれらの工場閉鎖の時期が前倒しされるのではないかとの見方も出ているが、筆者がむしろ心配するのは、新型コロナウィルスの感染拡大の影響によって市場の方向がこれまでの産業の延長から、産業全体の風景が大きく変わっていくのではないか? という懸念である。

例えば、LCD市場が大きく崩れれば、すでに市場を握った中国企業たちにとっても、ビジネス的に厳しくなり、その結果として2つの方向が予想されることとなる。1つは、以前からささやかれている業界再編の加速である。大画面のLCDパネルでは、BOEとCSOTの2強を核とした再編話も聞こえてくる。2つめは、中国メーカーも皆こぞって有機EL(OLED)へシフトする方向である。LCDの爆投資に続いてOLEDでもすでに20ライン近くの投資が行われており、Flexible OLEDの量産も始まっている。現段階での技術的な差や歩留まりの問題などの指摘する声もあるが、すでに韓国勢の背中は見えており追いつくのは時間の問題と言える。加えてもう1つの大きな変化が見込まれる。ディスプレーの技術とプレーヤーの劇的な変化である。

  • ディスプレー勢力図

    図1 2019年春時点のG8以上の大型ディスプレーパネル生産ラインの配置(「中国内 vs. 中国外」の勢力比較)。韓国2社が2020年にLCDから完全撤退すれば、この時点でLCDの生産量の約6割を握る中国のシェアが2022年には8割を超えることになる。この他に、G6サイズを筆頭にしたOLED生産ラインもすでに20本近くあり、Flexible OLEDの生産もスタートしている