新型コロナの影響で減速するパワー半導体市場
英国のハイテク市場動向調査会社であるOmdiaは、2020年のパワー半導体の市場規模について、3月発表の数値を引き下げ、前年比6.9%減の431億ドルになるとの予想を発表した。新型コロナウイルスの感染拡大により、スマートフォン(スマホ)や車載電子機器というパワー半導体にとって主要製品市場からの需要が減少しているためであるという。
同社が指すパワー半導体市場とはパワー集積回路(IC)、パワーディスクリート、パワーモジュールの3種類のセグメントで構成されており、このうちディスクリートおよびモジュール市場については、従来予測のほぼ横ばい程度から、ディスクリートが同10.7%減、モジュールが同10.3%減へと大きく落ち込むとの予測となっている。
またパワーIC市場も同3.9%減の234億ドルとの予想で、2年連続マイナス成長という稀有な事態となるとしている。現状、パワーIC最大の消費市場はスマホを中心としたワイヤレス市場であり、Omdiaでは新型コロナウイルスの感染拡大前には、ワイヤレス市場について同3.4%増の成長を予想していたが、新型コロナウイルスの影響が明らかとなったことから、これを同9.6%減へと下方修正した。
この落ち込み方についてOmdiaのパワー半導体担当シニアアナリストであるKevin Anderson氏は「サプライチェーンの中断、店舗の閉鎖、在宅命令、失業、および新モデルの発売遅延などが重なったことで、ワイヤレス市場そのものが縮小してしまった。スマホの出荷台数そのものが減少したことは要因であるが、そうした中、スマホメーカー各社はパワーICの搭載数が比較的少ないミッドレンジ製品の提供を中心に行っているため、パワー半導体の利用が落ち込みがちになっている」としている。
また、車載分野についても、自動車販売店の閉鎖、生産工場のラインの停止などもあり自動車そのものの販売も急減しており、2020年の自動車販売そのものが同2桁%の落ち込みとなる可能性があるとしており、パワーIC市場も同6%減となる見込みだとしている。
全体的に減速していくディスクリート
ディスクリートの詳細を見ると、2020年のマイナス成長予測は主に標準的なMOSFETパワートランジスタによるものと予想されているる。2020年のMOSFET市場は同16.5%減、金額にして約14億ドルの減少だという。MOSFET市場は2021年にやや回復すると見られているが、2024年までは2018年のレベルには戻らない見込みだとしている。
一方、バイポーラパワートランジスタは同15%減、IGBTパワートランジスタは同6.8%減と予想されているほか、整流器とサイリスタについては、1%未満の減少とほぼ横ばいの見込みとしている。
パワーモジュール市場の回復は2024年以降
パワーモジュール市場については、標準のIGBTパワーモジュールが同11.1%減、IGBT-IPMが同15.6%減、MOSFETモジュールが同11.9%減と予想されている。また、2021年に若干の回復が期待されるディスクリートとは対照的に、パワーモジュール市場は2021年も大きな回復は見せず、2022年、2023年ともにマイナス成長が続き、本格的な回復は2024年になると予測している。
パワー半導体の希望の星となるコンピューティング市場
OmdiaのシニアリサーチアナリストであるKevin Anderson氏は「コンピューティングおよびデータストレージセグメントは、パワーICにとって将来性のある明るい市場である。自宅退避、在宅勤務、オンライン教育の環境構築により、データセンター、ノートパソコン、そして外部ディスプレイやウェブカメラなどのアクセサリの需要が高まっている」と述べており、Omdiaは同セグメントのパワーICの売上高について、2020年に同2.6%増と予測している。
なお、Omdiaでは2020年の半ばまでに先進諸国で新型コロナウイルスの感染防止に関するさまざまな規制が徐々に緩和され、その後の新型コロナウイルスの感染拡大を管理可能であること、ならびに12か月以内にワクチンの開発が成功する、という前提であるが、2021年は消費者心理が戻り、自動車やテレビ、スマホなどの購入が進むことで、パワー半導体市場も堅調に回復するとの見方を示している。