NASAが月の水(氷)探査計画を発表

米国航空宇宙局(NASA)・ジェット推進研究所(JPL)は2020年4月27日、月の永久影に眠っていると考えられている水(氷)を探すため、超小型の探査機「ルナー・フラッシュライト(Lunar Flashlight)」を打ち上げると発表した。打ち上げは2021年11月の予定。

水は人が生きるうえで必要不可欠であり、またロケットの推進剤としても利用できるが、その必要な量すべてを地球から持ち込むのは現実的ではない。もし月で現地調達ができれば、有人月探査は飛躍的に進むかもしれない。

  • ルナー・フラッシュライト

    月の極域にあるクレーターの中の永久影の中を探査するルナー・フラッシュライトの想像図 (C) NASA/JPL-Caltech

月に水はあるのか?

NASAは現在、アポロ計画以来となる有人月探査計画「アルテミス」を進めており、2024年にも有人月着陸が予定されている。アルテミスはまた、月へ行って帰ってくるだけだったアポロ計画とは異なり、月や月周辺に宇宙飛行士が滞在し続けることが計画されており、その知見は有人火星探査に活かされることになっている。

月に長期間滞在し続ける際に重要となるのが、資源をどう確保するかという問題である。たとえば水は、宇宙飛行士の生活はもちろん、ロケットの推進剤としても利用可能だが、必要なすべての量を地球からロケットで持ち込もうとすると、とてつもないコストがかかってしまう。

じつは、これまでの月探査で、月の極域にあるクレーター内部の「永久影」の中に、水が氷の状態で眠っている可能性が高いことがわかっている。月は自転軸の傾きがとても小さいため、月の極域のクレーター内部には、太陽の光が決して届くことのない領域が生じる。これを永久影といい、内部の温度はほぼ-170℃で保たれており、真空中でありながら水が蒸発しない「コールド・トラップ」と呼ばれる状態にあると考えられている。

月には彗星や小惑星が衝突したり、太陽風が月の土壌と相互作用したりして、水氷を含むさまざまな水の分子がもたらされていると考えられており、それらがこのコールド・トラップの中に入り込むと、蒸発して散逸するのに必要なエネルギーを得ることができず、何十億年も蓄積され続けることになる。

もし、この水を採掘して利用することができれば、有人月探査は飛躍的に進めやすくなる。しかし、月のどこに、どれくらいの水があるのかは、はっきりとはわかっていない。

NASAゴダード宇宙飛行センターのBarbara Cohen氏は「月面にある、暗くて寒いクレーターの中に氷があることはわかっていますが、これまでの観測ではやや曖昧でした。もし、宇宙飛行士を送って、その水を資源として利用するのであれば、氷が確実に存在するということを確認しなければなりません」と語る。

  • ルナー・フラッシュライト

    NASAの月探査機「ルナー・リコネサンス・オービター」が撮影した、月の南極にある「シャックルトン」クレーター。その底は永久影になっており、水(氷)が眠っている可能性がある (C) NASA's Goddard Space Flight Center

ルナー・フラッシュライト

そこでNASA/JPLは、ルナー・フラッシュライトと名付けた探査機を打ち上げることを決定した。

この探査機はいわゆる6Uサイズのキューブサットと呼ばれる超小型衛星の一種で、ブリーフケースほどの大きさしかない。月を南北に回る極軌道に投入され、約2か月間にわたって探査を行う。

探査機には4基のレーザー反射計が搭載されており、水に吸収されやすい近赤外波長域のレーザーを照射する。もし氷がなければ、レーザーはそのまま岩に当たって跳ね返ってくるが、逆に氷があればレーザーが吸収される。また、その吸収率が高ければ高いほど、そこに氷が広がっている可能性が高くなる。

ルナー・フラッシュライトが探索できるのは、表面の氷の有無のみで、地下についての情報を得ることはできない。しかし、月の水に関する理解のギャップを埋めることはできる。

Cohen氏は、「この探査機で得られるデータを、他の月探査機で得られたデータと比較することで、月における水氷の特徴に相関関係があるかどうかを調べることができ、月の全球における地表の氷の分布を把握することができるでしょう」と語る。

また、なにより超小型衛星であるため、コストパフォーマンスは抜群に高い。さらに、軌道変更などに使うスラスターには、"グリーン"な推進剤が用いられている。従来のヒドラジンを使うスラスターとは異なり、アンモニウムジニトラミド(ADN)と呼ばれる物質を使ったLMP-103Pという推進剤を使っており、環境への負荷や毒性が小さいという特徴をもつ。

この計画のプロジェクト・マネージャーを務める、JPLのJohn Baker氏は「ルナー・フラッシュライトのような技術実証ミッションは、低コストで、私たちの知識の中のある特定のギャップを埋めることができ、そしてNASAが計画している月面への長期滞在ミッションへの準備や、将来のミッションで使用される可能性のある重要な技術の試験に役立ちます」と語る。

ルナー・フラッシュライトの打ち上げは2021年11月の予定で、アルテミス計画における最初のミッションである「アルテミスI」の一環として行われる。アルテミスIは、NASAが開発中の巨大有人ロケット「スペース・ローンチ・システム」の初の試験飛行となるミッションで、無人の「オライオン」宇宙船を載せ、月へ向けて打ち上げる。このとき、米国内外から募集した13機の超小型衛星もいっしょに送られることになっており、ルナー・フラッシュライトはそのうちの1機となる。

なお、この13機のなかには、日本のJAXAの超小型探査機「EQUULEUS」と「OMOTENASHI」も搭載される。

  • ルナー・フラッシュライト

    探査を行うルナー・フラッシュライトの想像図 (C) NASA/JPL-Caltech

参考文献

News | NASA CubeSat Will Shine a Laser Light on the Moon's Darkest Craters
JPL | Cubesat | Lunar Flashlight
Micro Propulsion System Summary - CubeSat Propulsion
ISASニュース2020年2月号