波長375nm以下のLEDエピタキシャルウェハの製造からチップ、デバイスまで幅広く手がける紫外線LEDの専門メーカーであるナイトライド・セミコンダクターは、深紫外線LEDを不織布マスクに照射した場合、マスクの粒子捕集性能にほとんどダメージを与えないことを実証したことを発表した。
同社は4月、波長275nmの同社製UV殺菌器「LEDPURE SM1」を用いて従来のコロナウイルスを不活化できることを報告していたが、今回の調査は、その結果を踏まえ、不織布マスクに照射した場合、粒子捕集性能に影響を与えるか否かを確認するために行ったもの。検証機関は株式会社メディエアジャパン、実施場所は独立行政法人国立病院機構仙台医療センター ウイルスセンター(BSL2)で、LEDPURE SM1とUVランプ式消毒装置を用いて3M製N95マスクと不織布サージカルマスクを用いて試験が行われたという。
具体的には、室温20℃相対湿度30%に設定した環境試験室の25m3の安全密閉チャンバー内で、鶏卵しょう尿液ならびにしょう尿膜腔中で増殖させたインフルエンザウイルスをネブライザーで噴霧し、一定時間後空気をサンプリングして回収する実験系を使用。その回収系の最後の部分に対象とするマスク素材を置いて、そこを通過してくる空中浮遊粒子の中の活性インフルエンザウイルスの量をプラーク法で測定、あるいは通過してくる空中浮遊粒子の物理的粒子の粒子径ごとの濃度をレーザー粒子測定装置で測定するという方法で、マスク素材の評価を実施したという。
その結果、波長275nmの深紫外線LEDを照射した場合、2種類のマスクともに40分の照射では捕集率が照射前(Control)と比較してほぼ同じ。N95マスクでは200分間の照射後でも99.959%と粒子捕集性能の劣化がほぼ認められないことを確認したという(照射の陰になっている箇所の不活化はできないとしている)。
スタンフォード大学の研究チームの報告によると、紫外線の光エネルギーが120Jに達するとマスクがダメージを受けるとされているが、同殺菌器の波長275nmの深紫外線LEDの光出力は10cmの照射距離で0.0000013W/cm2と、20Wの波長260nm付近のUVランプの20分の1程度であり、120Jに到達するためには2万5640時間かかる計算となるため、不織布マスクにダメージを与えにくいことが考えられると同社では説明している。
また、この少ない光エネルギーで、高い不活化効果を発揮する背景には光の指向性およびスペクトルによる有効紫外線量が影響していると推測できるとも説明している。従来のランプ方式の場合、蛍光管が用いられ、かつ波長も複数含まれ、発熱も伴うが、LEDの場合、単一スペクトルを一定の角度内に照射することが可能であるため、それがエネルギー量を抑えつつウイルスに効率的に影響を及ぼしながら、不織布へのダメージも抑制できることにつながっているのではないかと同社では推測している。
なお、同社では深紫外線LEDの照射でマスクを不活化すれば、感染防止が保証される訳ではないが、少なくともほかの方式との比較において有利であることを実証できたのではないかとしている。