国内で現在感染拡大している新型コロナウイルスは欧州や北米から持ち込まれ、このウイルスが全国に拡散した可能性が高い、と国立感染症研究所(感染研)がこのほど発表した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者から採取したウイルスのゲノム(全遺伝情報)解析の結果だ。同研究所は中国・武漢市からの初期の感染はほぼ終息し、これを第1波とすると「現在は第2波」との見解を示した。

厚生労働省によると、29日段階で国内の感染者はクルーズ船の乗員乗客を含めると1万5000人に迫り、死者は448人になった。これらの数字はPCR検査による確認・報告数で、専門家の多くは実際の市中感染者はかなりの数に上るとみている。また米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によると、世界全体では感染者が317万人を、死者は22万人を超えた。

感染研・病原体ゲノム解析研究センターの黒田誠センター長らのグループは、国内の患者562人から検体を集め、その新型コロナウイルスのゲノムを海外で登録されている4511人の検体のウイルスと比較した。ウイルスの遺伝情報である塩基の変異の程度を手掛かりに詳しく調べたところ、武漢で発生したウイルスは、1月から2月にかけて日本に流入し、全国各地でクラスターを発生させたことが分かった。

そして、武漢から発したウイルスは変異して欧州や北米で感染爆発を起こし、その変異ウイルスが3月中旬までに海外からの帰国者により持ち込まれて国内に流入。大都市から地方に感染拡大して現在の状況になったという。同グループは、武漢由来のウイルスは既にほぼ終息したとみている。

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    中国・武漢市や欧州、日本などで検出された新型コロナウイルスの全遺伝情報の相互の関係を表した図(提供・国立感染症研究所)

感染研のグループはまた、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客乗員のうち、検査で陽性となった70人のウイルスのゲノムも解析した。その結果、そのウイルスは武漢由来で、現在感染拡大しているウイルスとは異なることも判明したという。このほか、この約4カ月の間にウイルスは少なくとも9塩基がランダムに変異した可能性が高いことも分かったという。

感染研は「渡航自粛が始まる3月中旬までに海外からの帰国者経由で第2波の流入を許し、数週間のうちに全国各地へ伝播して『渡航歴なし・リンク不明』の患者・無症状病原体保有者が増加した」とみている。また「由来元が不明な新型コロナウイルスが密かに国内を侵食し、現在の感染拡大へつながったと考えられる」と指摘し、水際作戦が事実上失敗した、との見方を示している。

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    国立感染症研究所で分離された新型コロナウイルスの電子顕微鏡画像。粒状の粒子の上にコロナウイルス特有の冠状のスパイクタンパク質が観察できる(国立感染症研究所提供)

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