東京農工大学は、クライオ電子顕微鏡解析・免疫組織学・ノックアウトマウスの技術を用いて、哺乳類の体内における繊毛(せんもう)運動のパターンを制御する仕組みを解明したと発表した。
同成果は、東京農工大学 工学研究院生命機能科学部門 餘家博 特任助教(現・基礎生物学研究所)、篠原恭介 特任准教授、工学部生命工学科 酒井敬史氏(学部4年生)、愛知教育大学 上野裕則 准教授、名古屋大学 成田哲博 准教授らの研究グループによるもの。詳細は、米専門誌プロスジェネティクス (PLoS Genetics)にてオンライン掲載された。
哺乳類の体内には、長さが数マイクロメートルの「繊毛」と呼ばれる構造を持つ細胞がある。繊毛には、動くことにより水の流れを発生させる運動繊毛と、動かずに細胞外の環境のセンサとして働く一次繊毛の2つのタイプがある。
運動繊毛は、気管・脳・卵管・精子などにあり、それぞれ、ウイルスや細菌の除去・脳髄液の循環・受精を担っていると考えられている。繊毛は、平面打運動と呼ばれる往復する運動パターンにより、水流を一方向に発生させる。
これまで、ヒトの繊毛運動不全症患者のゲノムでRsph4a遺伝子の変異が見つかっており、同遺伝子を喪失させたノックアウトマウスでは、通常観察される平面打運動が回転運動に変化することが分かっていた。
本研究では、生物試料の周囲に水がある状態で解析できるクライオ電子顕微鏡を用いて、マウス気管繊毛の3次元構造を決定した結果、Rsph4a遺伝子ノックアウトマウスでは、繊毛内部のラジアルスポークという構造に異常があることが判明した。
運動繊毛内部には96nmごとの繰り返し構造が存在し、その構造内部には3種類のラジアルスポークが存在することが知られている。今回、Rsph4a遺伝子ノックアウトマウスでは、3種類のラジアルスポークすべてで、先端部にあるヘッドと呼ばれる部位とネックと呼ばれる部位が失われていることがわかった。
また、免疫組織学の技術を用い、アミノ酸配列の相同性からラジアルスポークのヘッドとネックを構成すると考えられる複数のタンパク質の局在の有無を観察。通常のマウスではタンパク質が気管繊毛に局在することが観察されたのに対し、Rsph4a遺伝子ノックアウトマウスでは局在が失われていることを明らかにした。
この結果から、繊毛運動のパターンを決定するラジアルスポークが本来の構造を作って正しく機能する上で、Rsph4a遺伝子から作られるタンパク質が不可欠な役割を担っていることがわかった。
今回の研究により、ラジアルスポークの先端部位が繊毛の運動パターンの制御に必須であると判明。
研究グループは、今後はこれに近接する中心対微小管という構造との相互作用による運動パターンの制御の仕組みを明らかにしたいとコメントしている。また、この仕組みを明らかにすることは、病気の発症する仕組みのさらなる解明および治療法開発につながるとしている。