高まるAV over IPへの要求

AV機器には、優れた品質と接続性が常に求められてきました。カメラやディスプレイの性能が向上するにつれ、キャプチャされて表示される映像や画像は「現実世界」で目にするものに限りなく近づいています。

この厳しい要求の最前線に立っているのが業務用AVです。そのユースケースは、会議室のコラボレーションディスプレイ、デジタルサイネージや大型LEDディスプレイ ウォールで提供されるビデオ映像の拡大など、近距離のディスプレイ間の相互通信がほとんどです。

ビデオフレームサイズとフレームレートがHDから4K、8Kへ、60fpsから120fpsへと上がる中、ビデオソースとディスプレイ間の接続帯域幅もこれに対応する必要があります。たとえば、HDMI 2.0で非圧縮の4Kp60ビデオを伝送する場合、最大18Gbpsものビットレートが使用されます。そのため、ケーブルの伝送距離は大きく制限されています。

使用するプロトコルにもよりますが、高い解像度とフレームレートをサポートするには、一般的に、圧縮するか、複数のビデオリンクを設けるか、規格とケーブル仕様をすべて一新するかのいずれかが必要でした。しかし現在、高帯域幅をサポートし、ポイントツーポイント接続のリーチを拡大し、インフラコストを削減し、ネットワーク上の装置をよりフレキシブルで俊敏に使用する方法として、AV over IPという新しい技術が登場しています。

AV over IP技術

新しい技術は何でもそうですが、先行サプライヤーが、本質的に独自仕様の技術であるものを標準化しようとした結果、業界が制約と妥協に悩まされることはよくあります。

その技術がきちんと動作し、相互運用性の問題もほとんどないのであれば大成功です。しかしながら、業務用AVシステムには、スケーラブルで、解像度やネットワーク速度に関わらず動作し、特定のベンダーの製品に縛られない技術が強く求められています。たとえば表1の比較をみると、真にスケーラブルでベンダー非依存の製品は、「SMPTE ST 2110」のみであることがわかります。

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    表1 - 業務用AV向けAV over IPの例

SMPTE ST 2110

SMPTE ST 2110規格は、今後何年にもわたり柔軟かつスケーラブルなシステムであり続けるよう、業界の選りすぐりの頭脳を結集して開発されました。その結果、ST 2110には、多くのサブ規格が存在します。次に例を挙げます。

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    表2 - SMPTE ST 2110規格

これらのサブ規格を組み合わせて、特定のアプリケーションやユースケースに対応できます。たとえば、テレビ放送事業者に非圧縮ビデオで問題はなくても、多くの業務用AVユーザーには 1Gbps CAT5ケーブルなどのコスト効率の高いインタフェースを使用できる圧縮ビデオ(ST 2110-22)が好まれます。さらに、RP 2110-23を使用すると、複数のリンクを統合できます。

もう1つの重要な要素は、タイミングとレイテンシです。低レイテンシを実現するには、ネットワークノードの同期が必要です。ST 2110-10では、ノードはST 2059規格に従って同期する必要があると定められています。ST 2059は次の2つのサブ規格で構成されます。

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    表3 - SMPTE 2059規格

これらのサブ規格は、PTP規格(IEEE 1588v2)の使用と、メディア(ビデオフレームなど)をアライメントするためにPTP時刻からのアライメントパルスを生成する方法を規定しています。

イーサネットによる同期は、最終的に得られる結果こそ似ているものの、ゲンロックによる同期とはまったく異なります。その理由は、イーサネットはパケットベースであり、パケットがネットワークを介して転送先に到着するまでにかかる時間は固定されていないためです。PTPプロトコルは、この問題を解決します。最良のタイミング結果を得るには、PTP対応スイッチ(Transparent Clock、Boundary Clock)を使用する必要がありますが、小規模なシステムでは必ずしも必要ではありません。PTP 同期は、完全なリップシンクを保証するだけでなく、ライブイベントやデジタルサイネージに対応する、超低レイテンシの完全に同期したビデオディスプレイ/ウォールを可能にします。