米国が約9年ぶりの有人宇宙船の打ち上げを計画

米国航空宇宙局(NASA)と、米宇宙企業スペースXは2020年4月17日、同社が開発を進めている新型有人宇宙船「クルードラゴン」について、5月28日に宇宙飛行士を乗せた初めての試験飛行を行うと発表した。

米国から有人の宇宙船が打ち上げられるのは、スペース・シャトルの退役以来、約9年ぶりとなる。

  • クルードラゴン

    初の有人飛行に向けて準備が進むクルードラゴン宇宙船 (C) SpaceX

クルードラゴンとは

クルードラゴン(Crew Dragon)はスペースXが開発している有人宇宙船で、国際宇宙ステーション(ISS)へ宇宙飛行士を運ぶことを目的としている。

NASAはかねてより、ISSへの物資と宇宙飛行士の輸送を民間に委託する計画を進めており、そのうち後者の計画ではスペースXと、航空宇宙大手のボーイングを契約者として選定。NASAが資金や技術面で協力する形で、開発が進められている。

このうちクルードラゴンは、最大7人が搭乗でき、地球とISSとの往復や、月へ飛行できる能力をもつ。宇宙飛行士だけでなく一般の宇宙旅行者が乗ることもできるほか、人が乗るカプセルは10回程度の再使用ができ、2回目以降の飛行では無人の補給船に転用するなどし、運用コストの低減が図られている。

また、高い安全性を目指して設計されており、さらにコクピットはタッチパネルが多用されているなど、新世代の宇宙船にふさわしい性能を兼ね備えている。

クルードラゴンは2019年3月、無人での宇宙飛行を実施。軌道変更やISSとのドッキング、地球への帰還などの技術実証に成功した。

そして2020年1月には、飛行中のロケットから脱出する試験にも成功。万が一発射台や、ロケットの飛行中に緊急事態が起きても、宇宙飛行士を安全に脱出させることができることを実証した。

またこれまでに、スペースXとNASAは共同で、打ち上げに使う「ファルコン9」ロケットの安全性の検証に始まり、打ち上げからISSとのドッキング、ISSからの離脱、そして地球に着陸するまでのシミュレーションを繰り返すとともに、打ち上げ前や帰還後に緊急事態が起きた際の救出訓練なども実施している。

一方、クルードラゴンが帰還時に使用するパラシュートの開発や試験では、何度かつまずきをみせ、開発の遅れの大きな要因となっていた。しかしスペースXは改良を重ね、「マーク3」と呼ばれる新設計のパラシュートを開発。これまでに試験を計26回を行い、安全性などを実証している。

  • クルードラゴン

    国際宇宙ステーションにドッキングするクルードラゴンの試験機(2019年3月撮影) (C) NASA

まずは2人で試験飛行、その次は野口宇宙飛行士が搭乗

こうした開発と試験を経て、NASAとスペースXはいよいよ宇宙飛行士を乗せた試験飛行を実施することを決定した。

4月17日時点で試験飛行の打ち上げ日時は、日本時間5月28日5時32分(現地時間27日16時32分)に設定されている。

この最初の有人試験飛行ミッションは「Demo-2」と呼ばれ、NASAのロバート・ベンケン宇宙飛行士とダグラス・ハーレイ宇宙飛行士の2人が搭乗する。両氏とも、今回が3回目の宇宙飛行となり、過去にはスペース・シャトルへの搭乗経験もあるベテランの飛行士である。

打ち上げは、かつてアポロ宇宙船やスペース・シャトルが飛び立った、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射台から行われる。

打ち上げ後、クルードラゴンは1日弱かけてISSに接近し、ドッキング。ベンケン氏とハーレイ氏はISSに2~3か月間滞在し、ISSでの実験や作業に参加する。

なお当初、Demo-2はあくまでクルードラゴンの試験飛行を目的とし、ISSでの滞在期間は2週間ほどとされていたが、その後計画が変更され、数か月間滞在して長期滞在クルーの一員として過ごすことになった。

帰還時には、フロリダ州ケープ・カナベラルの東の沖の大西洋上に着水する。これまでアポロなどの宇宙船は太平洋に着水しており、大西洋に着水するのは史上初となる。

このDemo-2により、2011年のスペース・シャトルの引退以来、約9年ぶりに米国から有人の宇宙船が打ち上げられることになる。同時に、シャトルの引退以来、米国はISSとの宇宙飛行士の往復にロシアの「ソユーズ」宇宙船を利用しているが、このロシア依存の状況に終止符が打たれることになる。

また、米国の宇宙船復活を記念し、Demo-2の打ち上げで使うファルコン9ロケットには、かつて60年代から90年代初めにかけてNASAが使っていた、「ワーム」と呼ばれるロゴが描かれる。

  • クルードラゴン

    Demo-2ミッションに乗り込む予定のNASAのロバート・ベンケン宇宙飛行士とダグラス・ハーレイ宇宙飛行士。写真はクルードラゴンの試験機の中で訓練しているところ (C) SpaceX/NASA

Demo-2が無事に成功すれば、クルードラゴンは実運用段階に移り、4人の宇宙飛行士を乗せ、地球とISSとの間を定期的に往復するミッションが始まることになる。その1号機(Crew-1)には、船長としてマイケル・ホプキンズ宇宙飛行士(NASA)、パイロットとしてビクター・グローバー宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストとしてシャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)、そしてJAXAの野口聡一飛行士が搭乗する予定となっている。

なお、ホプキンズ氏とグローバー氏はDemo-2のバックアップ・クルーも務め、ベンケン氏、ハーレイ氏が病気などで搭乗できなくなった場合には交代する。

一方、ボーイングが開発を進めている宇宙船「スターライナー」は、2019年末に無人の試験飛行を行うも、トラブルが多発したことで不十分な結果に終わっている。そのため同社は、今年中に2回目の無人の試験飛行を行うことを計画している。

  • クルードラゴン

    約9年ぶりとなる米国の有人飛行の復活を記念し、ロケットにはNASAの「ワーム」ロゴが描かれた (C) SpaceX

参考文献

Launch Date Set for First Crew Flight from U.S. Soil Since 2011 - Commercial Crew Program
Crew Demo-2 Mission | SpaceX