Samsungが大型液晶パネルの生産から撤退

Samsungグループのディスプレイパネル製造子会社であるSamsung Displayは2020年3月31日、社員に向け、2020年末までに大型の液晶パネル生産を止め、次世代技術である量子ドット有機EL(QD-OLED)に転換することを明らかにしたほか、併せて液晶パネルの開発・製造分野に従事する役員ならびに社員を中小型ディスプレイやQD-OLED部門に配置転換する計画も明らかにしたという。

中国勢の急速な台頭によって生じた大型液晶パネルの供給過剰に伴う赤字経営に加え、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による工場の稼働率低下、そして予見されるテレビを中心とした需要の低迷などを考慮し、液晶パネルの製造を終了することを決定したとの見方をTrendForceのディスプレイ市場調査部門WitsViewが披露している。

こうした情勢の変化に伴い、韓国のディスプレイ業界関係者によると、Samsung Displayは牙山事業所のG7とG8.5の製造ラインの装置一式ならびに中国蘇州のG8.5ラインを中国のディスプレイメーカーに売却することを検討しているという。

  • Samsung Display

    Samsung DisplayのDisplay City(牙山事業所)のディスプレイパネル製造ライン群のライン閉鎖および用途転換計画 (出所:IHS Markit Display Forum 2020)

  • LG Display

    LG Display坡州事業所のデイスプレイパネル製造ライン群 (出所:IHS Markit Display Forum 2020)

Samsung、LGの撤退でG7.5での生産は2社のみに

TrendForce/WitsViewの調べによると、韓国メーカーの大型パネル(面積ベース)の世界市場シェアは2019年の28.4%から2020年には20.4%に低下、Samsungの大型液晶パネル撤退後の2021年には10%未満にまで下落すると予測されている。SamsungのG7.5ラインでは主に75型ならびに82型のテレビ向けパネル、LGのG7.5ラインでは主に43型のテレビ向けパネルが製造されているという。

TrendForceのシニア調査マネージャーであるAnita Wang氏は、「Samsung Displayは、蘇州の工場を含むすべての液晶パネル生産ラインを2020年第4四半期までに終了することを計画している。同様にLG Displayも2020年第4四半期までにG7.5の生産ラインを閉鎖することを計画しているため、2020年の世界のG7.5パネルの生産能力は前年比19.7%減、2021年には同42.2%減となり、G7.5での液晶パネル生産を手掛けるのはAUOとInnoluxの2社のみになるという。

  • TrendForce

    テレビ用大型ディスプレイパネルの製造メーカー本社所属国別シェア (出所:TrendForce)

G8.Xでの生産量は中国ファブの動向次第

Samsung DisplayのG8.5液晶パネル製造ラインの閉鎖により、G8.X世代の世界の生産能力は2020年に前年比3.2%減となるとみられるという。また、2021年には同6.3%減とさらに減少する可能性があるというが、中国ディスプレイメーカーのHKCが2020年にG8クラスのファブを新たに稼働させる計画であることから、G7.5の生産能力の減少に比べて比較的減少量は少なくて済むとの見方もある。

なお、韓国の2大パネルメーカーの大規模な生産能力の減少に伴い、これまで拡大が続いてきた世界の液晶パネルの生産能力は頭打ちとなり、2020年は前年比ほぼフラット、そして2021年は同0.9%減と落ち込むものとTrendForce/WitsViewでは予測している。

Samsung、テレビ用パネルをシャープから調達か?

韓国や台湾、そして中国の複数のメディアが「Samsungは、液晶テレビ製造用に台湾の鴻海精密工業の傘下に入ったシャープと液晶パネルの取引を再開する方向で検討している」と報じており、中には「シャープから購入することを決めた模様である」と決定されたかのように報ずるメディアもある。

2013年には経営難に陥ったシャープを救済するためSamsungがシャープの株式のうち3%を買い入れるなど、関係の強化を進めていたが、鴻海買収後、シャープがSamsungへの液晶パネルの供給を断ったことから両社の関係は断絶。Samsungは異例の措置として、競合のLGからパネルを緊急調達して難局を乗り切ったという過去がある。韓国ディスプレイ業界関係者の一部からは、「Samsungは政府の素材国産化方針に従って再びLGからパネル調達を行うべきだ」という主張も上がっていると言われており、今後のSamsungの動向に注目が集まっている。