素材・部品・装置の国産に向けて国を挙げて企業の研究開発を支援する韓国

日本政府による半導体・ディスプレイ素材の輸出管理厳格化をきっかけに韓国では「素材・部品・装備(製造装置および設備を指す)産業の競争力強化に向けた特別措置法(素部装特措法)」が成立、2020年4月1日に施行されたが、それに併せる形で脱日本を目指す施策が次々と同国にて実行に移されている。

韓国産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)は4月7日、「素材・部品・装備を融合による革新を支援するサポートグループ」の発足式を行い、本格的な活動に入ったことを明らかにした。サポートグループは素部装特措法に基づくさまざまな韓国政府の施策の1つとして関連企業の技術力向上を効率的に支援するために結成されたものである。

サポートグループは、政府や地方自治体が出資した32の国立および公立研究所や独立研究機関などで構成されており、これらの機関で働く約1万人の研究者や活用可能な約2万6000台の装置をデータベース化することで、素材・部品・装置・設備関連の企業は、これらの研究資源を、これまでよりも簡単に活用することができるようになるという。

韓国通商産業資源部は2020年、テストベッドの装備構築に1394億ウォン、信頼性評価に200億ウォン、量産評価に400億ウォンなど、計2000億ウォンを投じて、選定した100個の品目の技術開発成果が実際の量産につながるように支援する計画であるという。

最初は自動車分野で官民相互協力を開始

同サポートグループと民間企業による協力モデルの第1段階として自動車産業が指名されており、サポートグループの発足と併せて、現代自動車と300余りのパートナー、サポートグループの3者による自動車分野における相互協力協定覚書の締結式も行われた模様だ。

現代自動車は2025年までに部品の信頼性向上に向けた250の課題を掲げた「部品の信頼性向上ガイドライン」を協力会社と共有する一方で、サポートグループの支援を受けて部品の信頼性を高めていく計画だという。3者の役割分担は、現代自動車が部品供給企業の信頼性活動の支援と完成品装着の評価(量産評価)をサポートし、部品供給企業各社は各部品の信頼性向上と関連技術の開発能力の向上、そして公的研究機関は部品供給企業の信頼性向上ならびに技術開発・試験・評価の支援を行う、といったものとなっている

素材部品装備融合革新支援団発足と自動車の共存協力協定覚書締結の式典 (出所:韓国通商産業資源部ウエブサイト)

研究促進に向け、環境規制を緩和

なお、韓国通商産業資源部は先般、日本の輸出管理厳格化をきっかけに集中投資してきた核心素材・部品・装備分野の品目を従来の100品目から338品目に拡大したことを明らかにしており、これらの品目の研究開発に対しては化学物質管理法などの環境規制に関する法律を一時的に緩和することも決めた。また、研究開発の活性化に向け、化学物質の登録・評価に関する法律を簡略化可能な品目も従来の159品目から2021年末までに338品目に増やすことも決めたという。

韓国に拠点を持たない日本企業は受注が困難になる可能性

新型コロナウイルスの感染拡大が続く2020年4月時点で、日韓の行き来は事実上禁止状態にあり、貨物輸送にも支障が生じており、日本で韓国の顧客と商談を行い、受注を取り付け、製品を納入することが困難な状況となっている。さらに今回の特措法の施行により韓国政府は半導体製造に必要な素材、部品、化学薬品・ガス、製造装置などを、国産化もしくは海外メーカーを自国に誘致して製造させる現地化の方向性を強めている。事実、Samsung Displayも一連のQD-OLED製造装置もSEMESはじめ韓国製(日本企業の韓国子会社を含む)を優先して選定しているように見える節があり、新型コロナウイルスの感染拡大が終息した後、この傾向がますます強まる可能性があり、日本の半導体・FPD装置・材料関連メーカーは動向を注視する必要があるだろう。

フジキンが韓国工場を拡張し増産体制を構築

韓国での5G商用化に伴い、データセンター向け設備投資が進むと見て、ウェハ自動搬送メーカーのローツェは、受注増を見込み、韓国工場での新棟建設を進めていることをすでに明らかにしているが、それに続き、バルブメーカーのフジキンも同国での半導体製造装置用ガスユニット(半導体の製造プロセスで使用されるガスを精密の制御するためバルブやフィルター、レギュレーターなどを集積した部品集合体)の生産能力を増強するため、釜山にある子会社が工場隣接地を取得し、新棟建設を始めている。

同社関係者によれば、韓国政府が進める半導体の素材・装備製造工場の現地化政策に応えるもので、5G時代を見据えて韓国半導体メーカーの成長に期待をかけたポストパンデミックを見据えた先行投資だという。投資額は約200億ウォン(約18億円)で2020年7月に完成予定だとのことで、これにより同工場での生産能力は金額ベースで年間約3500億ウォン(約320億円)に高まる見通しであるという。

また、東レの韓国における100%子会社で、炭素繊維や高分子フィルムなどを手掛ける東レ先端素材(Toray Advanced Materials Korea)は、韓国政府の要請で、慶尚北道亀尾市にある工場の生産ラインを改造しマスク用特殊不織布の生産を始めた。1日にマスク650万枚を作ることができる分量だが、そのすべてを韓国内のマスク会社に供給しているようだ。

韓国政府や韓国顧客の要請を受ける語りで、日本の素材部品装置メーカーも韓国での製造が盛んになってきているようである。