Imaginationへの支配権強化をもくろむ中国資本
GPU IPベンダの英Imagination Technologies(IMG)は、同社を買収した中国国有投資企業である中国国新ホールディングス(China Reform Holdings)より新たに4人の取締役就任に向けた緊急取締役会の開催通知を受けたが、英国の国会議員らは、同社の支配権変更が英国の国家安全保障への脅威になるとして政府の介入を求めていると英国の複数のメディアが報じている。
英国国会議員らは、中国国新が取締役会で主導権を得たのち、IMG本社を英国から中国に移動させようとしているとし、国家安全保障面だけではなく、雇用面でも猛反発している。英国の情報機関・政府通信本部(GCHQ)と国家サイバーセキュリティセンターも、IMGの動きを監視しているという。
報道によると、IMGのCEOを務めるRon Black氏を含む複数の幹部は、取締会役員が入れ替われば、辞任せざるを得ない見通しだという。一部の英国メディアは「密室のクーデター」と表現している。
最新の報道では、同社の緊急取締役会は急遽中止となったとされているが、今後の中国勢の出方が注目されている。
Imaginationの中国勢による買収は2017年
中国国新は、2017年9月にタックスヘブンとして有名なケイマン島の中国系投資ファンド「Canyon Bridge Capital Partners」を通じてIMGを買収した。買収額は5億5000万ポンド(約803億円)であった。
2017年9月、米国のトランプ大統領は対米外国投資委員会(CFIUS)に指示し、Canyon Bridgeによる米国のFPGAベンダLattice Semiconductorの買収を阻止した。中国系であることを表に出さずに営業活動を行っていた同ファンドだが、トランプ大統領ににらまれて以降、米国での活動は無理と判断し、本社を米国シリコンバレーからケイマン諸島に移転していた。
なぜImaginationは買収されたのか?
なぜ、IMGは中国資本に買収されることになったのかを振り返ってみよう。長年に渡ってiPhone向けSoCのGPUコアとしてIMGのPowerVRを採用していたAppleが2017年4月、突如iPhoneへのPowerVR IPの搭載を2年以内に終了するとIMGに通達。その結果、大口顧客を失うこととなったIMGは一気に経営危機に陥った。
その経営危機に乗じてIMGのビジネスの大半を買収したのがCanyon Bridgeが買収目的のために英国に設立したCFBI Investmentで、IMGの発行済み株式を現金で買い取ったという。
ちなみに、IMGとAppleの関係は2020年に入って、再び両社間で複数年のライセンス契約が締結され、取引が再開されている。
海外資本によるM&A認可の厳格化に向かう英国政府
英国の国会議員らは、中国国有企業のIMGの経営への介入阻止に関して米CFIUSと連携するようボリス・ジョンソン(Boris Johnson)首相あてに書簡を送ったという。
英国のテリーザ・メイ前首相は在籍中、テクノロジーなどの分野での資産の合併・買収について、より厳格な国家安全保障評価を導入し、2016年にソフトバンク(SoftBank)がArmを240億ポンドで買収して以降、こうしたM&Aの許認可が難しくなっている。
現在、英国では新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、死者が8000人を超す事態となっており、英国政府も感染拡大の抑制に向けた対策に追われている。ジョンソン首相もチャールズ皇太子も感染が判明しており、今回の中国勢のIMGの経営支配に向けた動きもジョンソン首相が入院中のどさくさに紛れてのものであり、こうしたやり方には英国議会のみならず、世論も反発していると英国のメディアは伝えている。
IMGがAppleのサプライチェーンに再び入ったことで、今後、米国のCFIUSがこの件に介入する可能性もでてきたようだ。