中国のメモリファブレスが資金調達

NOR型フラッシュメモリを得意とするファブレスIC設計会社の中GigaDevice Semiconductor(兆易創新科技)は、かねてよりDRAMの開発・生産に参入する機会をうかがっており、2017年には、19nmプロセスを採用したDRAMを開発・製造することで、中国の安徽省合肥市政府と契約を結んだと一部で伝えられたが、その後進展は見られなかった。

そんな中、中国証券監督管理委員会は4月7日、同社のDRAM開発・生産に向けた第三者割当増資の申請を認可したことを上海証券取引所に通知したと発表した。同社は、この増資で最大43億2400万元(約670億円)を調達し、DRAMの開発・生産の準備にあてるという。

フラッシュメモリに続いてDRAMにも参入へ

中国の英字メディアCaixin Globalなどによると、GigaDeviceは、Samsung Electronics、SK Hynix、Micron Technologyといった先進DRAMメーカーが採用している先端プロセスである1Z-nmで参入することは難しいため、当初は1X-nmプロセスでDRAMを開発・生産し、HPCや5Gのような先端・高性能DRAMを必要としないセットトップボックスやルーター、車載向けなどの比較的安価なDRAMをてがける計画だという。同社は2020年中にDRAMの設計と生産計画をまとめ2021年にも生産を開始するとしている。

同社のCEO兼会長のZhu Yimin氏は北京の清華大学で学んだ後、ニューヨーク州立大学に進み、米国で勤務した後に中国に戻り、2005年にGigaDeviceの前身となる企業を設立した。2016年に上場したGigaDeviceの株価は2019年、250%以上も上昇し、高値を更新しており、同社の株式の1割を保有する創業者であるZhu氏はすでに10億ドルの資産を保有するビリオネアとなった。同社のNORフラッシュは、顔認証カメラ、ドローン、オーディオプレーヤーはじめ多様な電子機器に広く組み込まれて使われている。

技術入手困難で混とんとする中国のDRAM生産計画

中国では、清華紫光集団傘下のYMTC(長江存儲科技)が3D NANDフラッシュメモリの生産に成功し、2020年はいよいよ本格量産体制に移行しようとしている。しかし、現在、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、米国はじめ海外の半導体製造装置メーカーからの立ち上げ支援のための技術者たちが母国へ帰国してしまったほか、ASMLも「武漢へのDUV渡航装置の遅配」を認めるなど、製造装置そのものの出荷遅延も生じている。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が終息に向かえば、計画は遅れが生じるにしても、やがて量産体制が敷かれることになるだろう。このような3D NANDフラッシュの生産成功とは裏腹に、中国のDRAM生産の行方は以前から混とんとしたままだ。

中国の国策半導体メモリメーカーである福建省晉華集成電路(JHICC)は、中国初のDRAMメーカーになるはずであったが、台湾UMCがJHICCに対する技術移転を目的にDRAM技術を開発する過程で、Micronの台湾法人(旧Inotera Memories)の技術を違法に入手し、JHICCに提供しようとしたとして、JHICCとともに米国司法省から提訴された。

米トランプ政権は、JHICCへの米国製半導体製造装置の輸出を禁止したため、同社に駐在して装置立ち上げに従事していた米国装置メーカー(AMAT、Lam Research、KLA Tencorなど)の技術者もすべて引き上げてしまった。これにより、中国の中央政府や福建省が巨額を投じて進めてきたJHICCの生産立ち上げは、量産開始を目前にして暗礁に乗り上げることとなった。

一方、中国安徽省の省都である安合肥市に位置するChangXin Memory Technologies(CXMT)は、「中国唯一のDRAMメーカー」であることを宣伝している。同社はかつてInnotron Memoryと呼ばれていた企業で、2019年秋に8GビットLPDDR4の製造を開始したといわれているが、どこからどのように製造技術を入手したか不明である。かつては、台湾Inotera Memories(後にMicronが買収)から技術者を大量に引き抜いたが、JHICCのようにトランプ大統領ににらまれるのをさけるため、Inoteraを連想させるInnotronという社名をやめたとうわさされている。GigaDeviceは、自らDRAMを開発しようとしているほか、CXMTにも以前から投資してきたが、今回のDRAM生産に関してGigaDeviceとCXMTとの関連は明らかではない。

中国中央政府は、これら2社では心もとないと、清華紫光集団にNANDに続いてDRAMの製造を検討するよう要請し、同社は、2019年6月に検討チームを立ち上げ、その後、重慶市に生産拠点を設立すると発表した。

2019年末には巨大なファブの建設を開始し、2021年にチップの生産を開始する予定であるという。その過程で、旧エルピーダメモリの社長だった坂本幸雄氏を、人材リクルートやDRAM設計を目的としたに日本法人の社長(紫光集団の上席副社長兼務)に抜擢した。

このケースでも中国のほかのDRAMメーカー同様に先端DRAM製造技術をどのように入手するか不透明である。世界的に(特に日本では)DRAM人材は枯渇しており、人材を募集しただけでは先端DRAMの生産は無理であろう。かつて、清華紫光集団は、Micronの買収を提案したが、米トランプ政権の横やりでとん挫、東芝メモリ(現キオクシア)の買収も画策したがあきらめた過去がある。中国勢の動向に警戒する外国企業から最新製造技術を入手するのはますます困難になる状況下のため、中国でのDRAM生産の行方は混とんとしているが、今回のGigaDeviceがどのような戦略をもってDRAMを開発・生産するのか注目される。