東京工業大学は、コバルト酸鉛(PbCoO3)に圧力を加えることで、電子のスピン状態の変化や構成元素イオン間での電荷の移動が生じ、体積が減少することを発見したと発表した。研究グループでは、温度があがることで縮小する、新しい負熱誇張素材の開発につながるのではないかと期待している。

なお、研究グループは、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の酒井雄樹特定助教(神奈川県立産業技術総合研究所常勤研究員)、東正樹教授、Zhao Pan(ザオ パン)研究員を中心としたメンバーによって構成され、論文は2月21日付で米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載された

  • 新規負熱膨張素材開発へ - 東工大、コバルト酸鉛の新しい性質解明

    研究成果をもとに作成されたデザインイラスト (出所:東工大)

そもそもコバルト酸鉛(PbCoO3)は、2017年に東教授らによって世界ではじめて合成されたもの。この材料は、ペロブスカイト型(一般に元素+元素+O3の元素構成をとる、金属酸化物に代表的な結晶構造型)酸化物に分類され、このペロブスカイト型酸化物は、超伝導性、圧電性、イオン伝導性などのさまざまな有用な機能を持つために世界中で研究が進んでいる。

研究チームは、このコバルト酸鉛の高圧力下でのふるまいを、大型放射光施設SPring-8において、X線発光分光実験などによって詳しく調べた。

すると、15GPa(ギガパスカル)までの圧力下でCO2+における電子のスピン状態が高スピン状態から低スピン状態へと変化し、また、30GPa(ギガパスカル)までの圧力下でPb4+とCo2+のあいだで電荷の移動が起こることが確認された。

そして、さらに、上記の2つの変化にともなって、コバルト酸鉛の体積の減少も観測された。

研究グループによれば、上記の2つの変化によって、コバルト酸鉛を構成する各元素イオンの半径が縮小するために、体積の減少がおこると考えられるという。

半導体製造装置のように精密な作業が必要とされる装置では、部品が熱によって膨張すると、作業に狂いが生じ、大きな問題となる。そこで、熱によっても膨張しない素材が求められるわけだが、このような素材は、通常の素材に熱によって縮小する負熱膨張素材を混ぜ合わせることでつくられる。つまり、熱によって膨張する通常の素材に熱によって縮小する負熱膨張素材を混ぜ合わせることで熱による影響をプラスマイナス0にしてしまうというわけだ。

  • PbCoO3(Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3)の単位格子体積の印加圧力による変化。スピン状態変化、電荷移動転移に伴って、不連続な収縮が観測される。

    PbCoO3(Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3)の単位格子体積の印加圧力による変化。スピン状態変化、電荷移動転移に伴って、不連続な収縮が観測される (出所:東工大)

研究グループによれば、今回の研究成果は、圧力を加えるものであるが、熱を加えることによっても、同様に体積の減少が生じるのであれば、コバルト酸鉛は負熱膨張素材としても有望だという。

研究グループでは今後、コバルト酸鉛に化学置換を施すことで、熱を加えることによってもその体積を減少させることができないか、研究を進めていく考えだ。