宇宙嵐の一種「粒子嵐」の影響を調べる
米国航空宇宙局(NASA)は2020年3月31日、宇宙嵐の一種である、太陽からやってくる高エネルギーの粒子嵐を調べる新しい衛星「SunRISE」を開発すると発表した。打ち上げは2023年の予定。
6機の超小型衛星からなるミッションで、得られた成果は、高エネルギー粒子嵐が地球や太陽系全体に与える影響の研究や、月や火星に向かう宇宙飛行士の保護に役立つとしている。
太陽電波干渉計宇宙実験「SunRISE」
SunRISEは、NASAジェット推進研究所(JPL)が管理し、ミシガン大学が主導するミッションで、宇宙嵐の一種である、太陽からやってくる高エネルギーの粒子嵐を調べることを目的としている。
太陽では、表面で大きな爆発現象(フレア)が起こったり、突発的にプラズマの塊が放出されるコロナ質量放出(CME)が発生したりしており、そうしたフレアやコロナ質量放出によって加速されたと考えられる粒子が、地球まで到達する現象を「高エネルギー粒子嵐」と呼ぶ。
高エネルギー粒子嵐は、その名のとおり高いエネルギーをもっているため、宇宙を飛ぶ宇宙機の電子機器や太陽電池を故障させたり、宇宙飛行士の被曝量が増加したりするほか、地球を取り巻く磁気圏の磁気バリアを破って内側に侵入し、航空機の通信を妨げたり、乗員・乗客が被曝したりといった障害を与えることも知られている。
SunRISEとはSun Radio Interferometer Space Experimen(太陽電波干渉計宇宙実験)の頭文字から取られており、「日の出」を意味するSunriseにかかっている。オーブントースターほどの大きさのキューブサット(超小型衛星)を6機からなり、それぞれ10kmほど離れた編隊を組んで軌道を回ることで、1つの大きな電波望遠鏡として機能するようになっている。
この巨大電波望遠鏡は、太陽活動によって発生する、20MHzから1MHz以下の非常に低い周波数の電波画像を取得することができる。この周波数帯は地球の大気に吸収されてしまうため、宇宙を飛ぶ衛星でしか受信できない。
これにより、宇宙の3D地図を作成し、大きな粒子バーストが太陽のどこで発生し、どのように進化して太陽系内の惑星間空間に広がっていくのかを調べる。また、どの種類の放射線が、どのような順番で放出され、加速していくのかを決定するのにも役立つ。
さらに、太陽から惑星間空間に到達する磁力線のパターンをマッピングすることもできる。
また、NASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」や、欧州宇宙機関(ESA)の探査機「ソーラー・オービター」、また今年はじめにハワイに完成した「ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡」などとも協力して観測する。
SunRISEミッションを率いるミシガン大学教授のJustin Kasper氏は「私たちは太陽フレアやコロナ質量放出が起こる様子を見ることはできますが、それが高エネルギー粒子嵐をどう発生させているのか、どう地球に届いているのかまではわかっていません。その理由の1つは、これまでは粒子が加速されていく様子を見ることができなかったからです」と語る。
「なにが粒子を加速させ、その加速がどこで起こっているかについては、まだ多くの議論があります。SunRISEによる観測で、どの加速モデルが正しいかわかるでしょう」。
また、NASAの太陽物理学部局の部局長を務めるNicky Fox氏は「SunRISEは、太陽について理解を深めるだけでなく、太陽が惑星間環境にどのように影響を与えているかを理解するのに役立ちます。太陽がどのようにして宇宙嵐を引き起こしているかを知れば、宇宙船や宇宙飛行士への影響を軽減することができます」と語る。
NASAは現在、月や火星の有人探査を計画していることからも、SunRISEミッションから得られるデータは貴重なものとなる。
SunRISEは、NASAの小型宇宙科学ミッション計画「エクスプローラーズ計画」の一環として行われる。同計画にはいくつかのクラスがあり、一から新しい衛星や探査機を開発するものもあれば、ミッションを終えた宇宙機を新しいミッションに転用したり、他国の宇宙機に観測機器を提供したりといった形のものもある。
後者はミッション・オブ・オポチュニティ(Missions of opportunity)と呼ばれ、新たに宇宙機を開発するよりも比較的安価に済むため、NASA以外の大学などからの提案がしやすくなっている。SunRISEも同クラスの下で開発され、開発や打ち上げなどを総コストは6260万ドルとしている。
SunRISEは衛星こそ新たに開発されるものの、打ち上げは別の静止衛星に相乗りして行うことで低コスト化を図っている。この打ち上げサービスは、米国のマクサー・テクノロジーズ(Maxar Technologies)が提供する「PODS(Payload Orbital Delivery System)」と呼ばれるもので、通信衛星などの静止衛星の空きスペースをキューブサットなどの搭載場所として活用し、静止衛星が静止軌道に到達した際、もしくは静止トランスファー軌道から静止軌道へ登る過程で分離するというものである。
静止軌道への打ち上げは大きなエネルギーが必要になるため、打ち上げコストが高くなるが、この方法を使うことで、キューブサットであれば低コストでの打ち上げが可能になる。また、静止衛星を運用する会社にとっても、もともと空きスペースとなっている場所を利用するため、少ない負担とリスクで追加の収益が得られるというメリットがある。
SunRISE打ち上げは2023年7月1日以降の予定で、どの静止衛星に相乗りすることになるかはまだ決まっていないという。親機となる衛星が静止軌道に到達したあと、SunRISEは分離され、SunRISEもまた静止軌道で運用される。ミッション期間は1年間の予定となっている。
参考文献
・News | NASA Selects Mission to Study Causes of Giant Solar Particle Storms
・U-M leads $62M ‘largest radio telescope in space’ to improve solar storm warnings | University of Michigan News
・‘Largest radio telescope in space’ to improve solar storm warnings - The Michigan Engineer News Center
・Sun Radio Interferometer Space Experiment (SunRISE) | Network for Exploration and Space Science | University of Colorado Boulder
・PAYLOAD ORBITAL DELIVERY SYSTEM (PODS)