京都府立医科大学大学院医学研究科の樽野陽幸教授らは31日、マウスを用いた実験により、塩味をおいしく感じる舌の細胞を特定したと発表した。塩味を脳に伝える情報伝達の仕組みも分子レベルで明らかにした。おいしさを損なわない減塩食品の開発につながる成果だ。
この細胞は舌の味蕾(みらい)と呼ばれる味覚器官の中にあり、ENaCとCALHM1/3と呼ばれる分子を併せ持つ。細胞が塩分に接すると、まずENaCを介してナトリウムイオンが細胞内に流入。次いでNaVという分子で活動電位が発生する。最後にCALHM1/3が神経伝達物質を放出し、味神経を通じて脳に塩味の情報が伝わる。
ENaCやCALHM1/3が欠損したマウスでは塩分を好む行動が見られず、味神経の塩分に対する応答もなく、この2分子を併せ持つ細胞が塩味細胞であることが分かったという。超解像顕微鏡で塩味細胞の微細構造をさぐったところ、味神経と接している部分にCALHM1/3が配置されていた。
これまでENaCだけが“おいしい”塩味を感じるためのセンサーと考えられてきた。しかし、ENaCが欠損したマウスがざるそばのつゆや漬け物と同程度の高濃度塩分に対して、弱いながらも塩分を好む行動が観察され、ENaCに依存しない塩味の受容メカニズムの存在が示唆された。塩の“おいしさ”を感じる仕組みが複雑なことを物語っているという。
日本人の平均塩分摂取量は1日当たり9.9グラム。日本高血圧学会のガイドラインにおける目標値の同6グラム、世界保健機関(WHO)が示す同5グラムを大きく上回っている。高塩分に起因する高血圧患者は993万人を数え、合併する脳心血管障害を含めると年間医療費は1.8兆円に上る。このため、減塩は予防医学の観点から特に重要な課題になっている。
しかし、現在の減塩策は薄味にする、ナトリウムの代わりにカリウムを用いるといった方法にとどまり、科学的な裏付けがなかった。減塩食品をおいしく感じられるようになれば、塩分摂取量の効果的な削減が期待できる。樽野教授は「減塩食品開発は社会的に求められている重要な任務。今後、食品企業との連携も含めて有効な戦略で進めていきたい」と話している。
研究論文は米科学雑誌「ニューロン」に31日掲載された。
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