カリフォルニア州全域が対象の外出禁止令で企業活動が停滞
米国カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は3月19日(米国時間)、すでにサンフランシスコおよび近隣の6郡に出していた「外出禁止令(Shelter-in-Place Order:自宅などの居住場所への退避命令)」をカリフォルニア州全土に広げ、約4000万人の州民に事実上の外出禁止を要請するとともに、日常生活に最低限必要不可欠ではないビジネスの操業休止を命令した。
州法に基づき、違反した個人や企業は処罰の対象となるこの命令は、サンフランシスコやシリコンバレーでは4月7日まで3週間の期間とされていたが、カリフォルニア州全体に及ぶことになった今回の命令は期限の定めがなく、いつ命令を解除するかは州知事が状況を見て判断するとしており、さらに長期化する可能性もあるという。
今回の難局を乗り越えるために当局が指定した医療関係などの必要不可欠な業務以外は操業を停止する必要があり、カリフォルニア州内の半導体メーカーおよび半導体製造装置・材料メーカーは、州内の前工程工場や半導体製造装置工場を操業できない事態に陥っている。AppleやBroadcom、NVIDIA、AMDなどシリコンバレーに本拠を構えるファブレス半導体関連企業は自社で工場を有しないため、製造自体に支障はないほか、Intelも本社はシリコンバレーにあるものの主力工場は州外にあるため、工場の操業という意味では今回の外出禁止令の影響は受けることはない。
しかし、ファブレスの主たる業務である半導体の企画・設計・マーケティング業務は必要不可欠な業務とは認められていないことから、ファブレス半導体企業のほとんどの社員が在宅勤務へと切り替えて対応が進められている。また、この外出禁止令がカリフォルニア全土に拡大されたことで、サンディエゴを本拠とするQualcommにも影響が及ぶこととなった。
Lam Reserchは、工場の操業休止に伴い、業績悪化は避けられないとして1月に公表していた今四半期の業績ガイダンス(達成目標値)を3月17日に撤回した。ほかの多くの半導体関連企業も業績悪化は避けられない模様で、ガイダンスの見直しをはじめている。米テレビ局CNBCの調べでは、米国の様々な産業界の150以上の株式公開企業で、新型コロナウイルスの脅威が業績に悪影響を与え下方修正することになると投資家に警告を発している。
半導体/IT企業の多くが早々に在宅勤務に切り替え
シリコンバレーのITおよび半導体各社は、Shelter-in-Place命令が出る前の3月上旬から在宅勤務を積極的に推奨してきていた。例えば、Appleは3月13日(米国時間)に、すでに営業を再開した中国圏を除くすべてのApple Store(直営店)を3月27日まで(4日後の17日に「新たに通知するまで」と変更し延長の可能性を示唆)閉鎖するとともに、全世界のAppleの事業所はすべて柔軟な働き方に体制を移行し、従業員は職務上可能なかぎりリモートワークで対応するものとし、出社が必要不可欠な職務の従業員は他人との距離を最大限に保てるスペースで作業させると公式に発表した。
カリフォルニア州の命令書によると、必要不可欠と認定された業務に従事するため出社する社員は、それぞれが6フィート(1.8m)離れて歩行・作業しなければならないと定められている。
IntelもAppleとほぼ同じ内容の発表を行い、社員に極力在宅勤務(IntelではWork-from-homeと呼んでいる)するよう呼び掛けている。Googleをはじめとする、通信サービスプロバイダーの主たる業務は、必要不可欠な業務と認定されているが、ほとんどの社員はAppleなどほかのIT企業同様に在宅勤務で対応している。
在宅勤務の拡大で半導体に思わぬ特需の可能性
シリコンバレーはITビジネスの世界的な中心地だが、在宅勤務は必ずしもうまくいっておらず業務遂行に支障が出ていると複数の米国メディアが伝えている。
Appleは、極秘で製品開発を行い、発表日まで製品情報が外に漏れぬような厳格なセキュリティシステムを構築し、社員にも秘密厳守を命じてきたが、これが裏目に出て、在宅の社員が社内の情報にアクセスできず、かといって開発途中のモノを自宅に持ち出すこともできないため、今後の開発・発表が遅れるのではないかと危惧されているという。
同様な事態は他社でも起こっているとされるほか、多くの人が一斉にインターネットにアクセスするため、通信負荷がかかり、作業がなかなか進まないとの声も聞かれるようになっている。さらに、カリフォルニア州では50人以上の集会は禁止されたこともあり、シリコンバレーにあるスタンフォード大学は学年末にあたる春学期(4~6月)の授業をすべてオンラインで行うことを決めたほか、ほかの教育機関も同様の措置をとる方向で進めているとされており、そこに映画館の閉鎖を踏まえ、新作の映画をネットで視聴することを可能にするといった動きも出てきており、インターネットへの負荷は高まる一方となっている。
加えて、在宅勤務者向けの高速・高性能・大容量のPCや高精細なモニタ、ヘッドセットの需要が高まっているともいわれており、こうしたIT機器関連という観点から見た場合、半導体の新たな需要が生まれる可能性が出てきたと言える。