米中貿易戦争の影響を受けた米国系ファブレス企業
半導体市場動向調査会社の台湾TrendForceは、2019年のファブレス半導体メーカーの売上高ランキングトップ10を発表した。2019年のトップ10社の売上高合計額は、前年比4.1%減の680億ドルとなったという。
2019年のトップ3社は順に米Broadcom、米Qualcomm、および米NVIDIAで、いずれもマイナス成長となり、これが市場全体のマイナス成長にも影響を与える結果となったと同社では指摘している。Broadcomの売上高は前年比7.0%減で、米国エンティティリストのポリシーの影響を受けた結果とみられる。また、2位のQualcommも中Huawei、台MediaTek、中Unisocなどの企業との激しい競争に直面。中国のスマートフォン(スマホ)メーカー各社が米国メーカーの半導体への依存度を下げ、MediaTekやUnisocの採用を進めるなどの取り組みを進めた結果、同社の売上高は同11.3%減となった。そして3位のNVIDIAは2019年第1四半期から第3四半期にかけてグラフィックカードの過剰在庫が続いた結果、第4四半期に在庫レベルは通常に戻ったものの、通年の売上高は同9.3%減となった。
こうした動きの結果、トップ10に入る米国系ファブレス半導体企業の中でプラス成長を遂げたのはAMDとXilinxのみで、AMDはInlteのCPU出荷不足の間隙を突く形で、売り上げを伸ばし、売上高を同4.0%増と伸ばしたほか、Xilinxも5G基地局への投資を中心に産業機器、自動車分野でも安定した成長を遂げ、同12.8%増を達成している。
中国での存在感を増す台湾勢
一方のファブレス半導体大国である台湾はMediaTekを筆頭にトップ10に3社がランクイン。MediaTekはOppoのAシリーズやXiaomiのRedmiなど多くの機種に採用されたほか、NovatekもTDDI(タッチコントロールICとディスプレードライバーICを統合・集積化したTouch Display Driver Integration)が中国のスマホメーカーからの受注を伸ばし、HuaweiとXiaomiが現在、同社の主要TDDIクライアントになっているという。残りの1社であるRealtekはTWS(True Wireless Stereo)チップ市場で存在感を示したほか、Wi-Fi 6アプリケーションも追い風となり、トップ10の中でもっとも高い成長率となる同29.4%増を記録している。
2020年のファブレス半導体業界はどうなる?
2020年のファブレス半導体業界の見通しについて、TrendForceでは、米中の貿易での対立関係は一見して改善傾向に向かっているように見えるが、完全な解決に向けた見通しは立っていないとしている。また、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大が消費者の電子機器に対する購買意欲に影響を及ぼしていることは確実であるとも指摘している。
こうした影響から、主に通信関連で強みを持つBroadcomやQualcommは、例えばQoalcommのチップがAppleのiPhoneに採用されることとなったとしても、新型コロナウイルスの影響により、iPhoneそのものの販売が低迷することが予想されるため、業績に対する貢献度はそれほど期待できないとの見方が強い。またNVIDIAも、新型コロナウイルスの影響を考慮してすでに2020年第1四半期の業績見通しを下方修正するなどの動きを見せており、そうしたことを考慮すると、2020年のファブレス半導体業界が高い成長度を達成することは難しいだろうとTrendForceでは指摘している。
なお、同社は具体的な2020年の成長率などを明らかにしていないが、これは新型コロナウイルスの感染拡大の影響がまったく読めないためであろう。台湾の半導体ハイテクメディアであるDigitimesも3月17日の電子版で、「新型ウイルスの蔓延により半導体を応用した最終製品の需要が、予想よりもはやく低下してきているため、半導体企業や関連企業が2020年の業績に関して悲観的になってきている」といった趣旨の記事を掲載している。ファブレス半導体企業の業績は最終製品の需要に大きく依存する以上、こうした影響は避けられそうになさそうである。