東京大学(東大)は3月18日、新型コロナウイルス(COVID-19)の原因ウイルス(SARS-CoV-2)の感染初期段階であるウイルス外膜と、細胞膜との融合を阻止することでウイルスの侵入過程を効率的に阻止することが膵炎などの治療薬剤として知られる「ナファモスタット」にある可能性を同定したと発表した。

同成果は、東大医科学研究所 分子発癌分野の井上純一郎 教授(アジア感染症研究拠点 北京拠点長)、東大医科学研究所 分子発癌分野の山本瑞生 助教、東大医科学研究所 アジア感染症研究拠点の合田仁 特任講師、同 松田善衛 特任教授、東大医科学研究所 ウイルス病態制御分野の川口寧 教授(アジア感染症研究拠点 拠点長)らによるもの。

今回の成果は、ウイルス外膜と細胞膜との融合を安全かつ定量的に評価できる膜融合測定系を用いることで、ナファモスタットが、3月初めにドイツの研究グループが有効性を報告していた類似薬剤「カモスタット」と比較して10分の1以下の1~10nMという低濃度で膜融合を阻害することを確認したというもの。今回の結果を受けて研究グループでは、ナファモスタットは臨床では点滴静脈注射で投与されるが、投与後の血中濃度は今回の実験で得られた阻害濃度を超えることが推測されることから、臨床的にウイルスのヒト細胞内への侵入を抑えることが期待されるとコメントしている。また、カモスタットについても、経口剤であり、内服後の血中濃度はナファモスタットには劣ると思われるが、ほかの新型コロナウイルス薬剤と併用することで、効果が期待できるかもしれないとしている。

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    ナファモスタットの新型コロナウイルスのヒト細胞内への侵入を抑える仕組みのイメージ (出所:東京大学Webサイト)

なお、研究グループでは、ナファモスタット、カモスタットともに国内で長年にわたって処方されてきた薬剤であり、安全性については十分な臨床データが蓄積されていることもあり、速やかな臨床治験を行うことが可能だとの見方を示している。