宇宙の天気を観測する人工衛星

米国海洋大気庁(NOAA)は2020年3月2日、トラブルで運用を停止していた宇宙天気観測衛星「DSCOVR」について、復旧が完了し、運用を再開したと発表した。

DSCOVRは、太陽風や磁気嵐などの「宇宙天気」を観測するとともに、地球を昼側から常時観測し、環境の変化などを捉えることを目的としている。

ただ、トランプ政権はたびたびDSCOVRの予算打ち切りや、NOAAの予算の大幅な削減を提言しており、その将来は不透明である。

  • DSCOVR

    DSCOVRが撮影した地球の昼側。DSCOVRは特殊な軌道から、地球の昼側の画像を常時撮影でき、その画像はWebサイトやTwitterを通じて準リアルタイムで公開されている (C) NASA/NOAA

DSCOVRはどうやって宇宙天気を観測しているのか

DSCOVRは、NOAAと米国航空宇宙局(NASA)が開発した衛星で、2015年2月10日に打ち上げられた。

約100日後には、太陽・地球系の第1ラグランジュ点に到着し、運用を開始。この場所は、つねに太陽と地球の間に位置することから、太陽と地球の間の宇宙環境や、相互作用を観測したり、また地球の昼側を観測し続けたりすることができる。

DSCOVRは「Deep Space Climate Observatory(深宇宙の気象観測所)」の略で、大きく3つの観測機を搭載している。

1つ目の「PlasMag」は、太陽から地球に向かって飛んでくる荷電粒子や電子、そして磁場などを観測し、太陽風と呼ばれる、太陽から吹き出す磁気と電気を帯びたガス(プラズマ)の動きを捉えることを目的としている。

太陽風が地球の磁気圏に当たると磁気嵐と呼ばれる現象が起き、停電が起きたり、全地球測位システム(GPS)など衛星の運用に影響を与えたりすることが知られている。DSCOVRは太陽風の状況をリアルタイムで監視し、万が一のときには警報を出す、いわば「宇宙天気予報」を行う。

2つ目の「EPIC」は、地球の昼側(太陽光が当たっている側)を常時観測し、地球表面からのエネルギーの放射量やエアロゾル、オゾン、雲の動きなどを観測。3つ目の「NISTAR」は地球のエネルギー収支を観測する。なお、衛星全体とPlasMagの運用はNOAAが、EPICとNISTARはNASAが運用を担当する。

衛星の設計寿命は2年とされていたが、実際にはそれを大きく超え、運用が続けられた。しかし2019年6月27日、衛星の姿勢制御システムに問題が起きたことで、「セーフ・ホールド・モード」と呼ばれる、異常が起きた際に宇宙機を安全に保つために待機状態にするモードに入った。

その後、NOAAとNASAのエンジニアが、ソフトウェアのパッチを開発。そして約9か月の沈黙を経て、復旧に成功し、運用が再開されることになった。なお、この間の宇宙天気予報は、NASAの「ACE (Advanced Composition Explorer)」という別の衛星が担った。

  • DSCOVR

    DSCOVRの想像図 (C) NOAA

"アル・ゴアの衛星"の将来は?

DSCOVRはもともと、1998年に立ち上げられた「トリアーナ(Triana)」という計画を源流にもつ。当時のアル・ゴア米副大統領の肝いりで始まった計画で、宇宙天気を観測するとともに、EPICによって撮影した地球の昼側の画像を、インターネットを通じて世界中に準リアルタイムで配信することで、環境問題や世界平和への意識を高めることが期待されていた。そのため「アル・ゴアの衛星」、「ゴアサット」などとも呼ばれる。

その後、打ち上げに使う予定だったスペース・シャトルが、「コロンビア」の空中分解事故で使えなくなったこと、またトリアーナが行うミッションは他の衛星でも代替可能との批判が出たことなどから、2001年に計画は一旦中止となる。この背景には、ゴア氏と大統領選で争い勝利した、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)の意向があったともされる。

ただ、NASAはトリアーナを解体せず、ゴダード宇宙飛行センターで保管し続け、さらに2003年には、衛星の名前をDSCOVRへ変えるなどし、計画再開を待ち続けた。そして2009年、NOAAが宇宙天気を観測する新しい衛星を求め、DSCOVRに資金提供することを決定。オバマ政権下の2011年には、前述したACEの後継機として、正式に計画を再開することが決定された。

そしてDSCOVRは保管庫から出され、試験や機器の調整などを実施。こうした紆余曲折を経て、打ち上げにこぎつけることになった。

観測を開始したDSCOVRは、宇宙天気と地球環境の観測所として活躍するとともに、EPICが撮影した画像をWebサイトやTwitterを通じ、世界中へ向け公開し続けている。

しかし、2017年1月に就任したドナルド・トランプ大統領は、同年に作成した2018会計年度の予算教書で、NASAが運用するEPICへの資金提供を打ち切ることを提案。議会はこれを拒否し、170万ドルの予算が認められた。翌年の2019会計年度の予算教書でもふたたび打ち切りを提案し、そしてふたたび議会がひっくり返し、70万ドルと減額されたものの運用継続が決まるという事態が続いた。

2020年会計年度の予算教書では170万ドルが示され、今年2月に発表された2021年会計年度の予算教書でも170万ドルと、低額ながらトランプ政権も予算を認めてはいるが、一方で衛星本体を運用するNOAAの予算は削られており、2021年会計年度の予算教書では、2020会計年度と比較して14.8%も減少。議会で覆される可能性が高いものの、DSCOVRの運用に影響が出る可能性もある。

なお、NOAAではDSCOVRや、1997年打ち上げのACEの後継機となる、新しい宇宙天気予報衛星「SWFO-L1 (Space Weather Follow-On L1)」の開発を進めており、2024年に打ち上げが予定されているが、予算減となればこの計画も影響を受けることになるかもしれない。

  • DSCOVR

    DSCOVRが運用されている場所の想像図。太陽・地球系の第1ラグランジュ点と呼ばれる、つねに太陽と地球の間に位置することから、太陽と地球の間の宇宙環境や、相互作用を観測したり、また地球の昼側を観測し続けたりすることができる (C) NOAA

参考文献

NOAA's DSCOVR Satellite is Operating Again | NOAA National Environmental Satellite, Data, and Information Service (NESDIS)
DSCOVR: Deep Space Climate Observatory | NOAA National Environmental Satellite, Data, and Information Service (NESDIS)
FY2021 PRESIDENT'S BUDGET REQUEST SUMMARY
EPIC : DSCOVR
A BUDGET FOR AMERICA’SFUTURE