飛鳥時代の西暦620年に起きたことが日本書紀に記され、日本最古の天文記録とされてきた現象の正体がオーロラだったとみられると国立極地研究所と国文学研究資料館、総合研究大学院大学の研究グループが16日発表した。これまでオーロラかどうかはっきりしなかったが、今回研究グループは日本でみられるオーロラの特徴などの研究成果を基に見解をまとめた。
日本書紀の推古28(620)年のくだりには「十二月(しわす)の庚寅(こういん)の朔(ついたち)に、天(あめ)に赤気(あかきしるし)有り。長さ一丈(ひとつゑ)余なり。 形雉(きぎし)尾に似れり」と記され、日本最古の天文記録として知られてきた。古代の天文記録は中国の歴史書を参照して現象を特定することが多いが、同年に似た記録がなく、「赤気」が具体的に何を指すのかはっきりしなかった。オーロラか彗星だとの見方が強かったものの、いずれも決め手に欠けていたという。
研究グループは雉(キジ)が求愛や縄張りの主張などの際、尾羽を扇形に開いてみせる姿に着目。またこれまでの研究で、日本など中緯度地域で見られるオーロラが赤く、扇形に広がってみえることを解明していた。これら2つの事柄を考え合わせ、日本書紀はオーロラの形をキジの尾羽に例えて表現した、との見解に落ち着いた。
オーロラは太陽から噴き出る電気を帯びた粒子と、地磁気の影響により発生する。地球の磁力線が極地域に集まっているため、北極や南極の周辺で観測される。日本でオーロラが観測されることはごくまれだが、当時は地磁気の軸が日本列島の方に傾いており、現在よりも観測しやすかったはずだという。
片岡龍峰・同研究所准教授(宇宙空間物理学)は「この成果はオーロラの発生の仕組みなど、過去の地球物理の状況を理解する手がかりの一つになる」「研究の過程で、キジの尾羽が扇型に開くことを知って驚いた。当時は今と違って身近にキジが生息し、美しい仕草を誰もが見ていたのだろう。当時の人々の感性がうかがえ、人文学的にも意義のある研究になっている」などと述べている。
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