旋盤(せんばん)とは、金属や樹脂などの切削加工を行う、代表的な工作機械のひとつです。工作物を回転させながら外周や内側を刃物で削るため、円筒形状や穴あけといった加工に使われます。
本稿では、旋盤とはどのような機械なのか、旋盤による加工方法や旋盤の種類、各部の名称のほか、旋盤加工の技術者が持っていると役に立つ資格について紹介します。
そもそも旋盤とは?
旋盤は、回転している材料に刃物をあて、刃物を操作することにより材料を削って加工する工作機械です。加工製品が回転軸に対して対称形になるのが特徴で、円柱、円筒形状であるシャフトやカラー、ボルトなどの加工を行えます。
旋盤にはいくつかの加工方法があり、刃物の種類や動かし方により呼び方が異なります。材料の外側を削る外径加工(外丸削り)、内側を削る内径加工、ねじのみぞをつくるねじ切り加工、回転方向と垂直に、回転中心に向かって刃物を進める突切り加工などです。
旋盤の歴史について
旋盤が登場したのは1700年代とされています。回転軸と平行に動かすことができる工具台を備えたことにより、刃物が手持ちであった従来に比べて、より精密な加工が行えるようになりました。
日本では、明治時代に国産の旋盤が作られるようになりましたが、当時の動力は「人」でした。人力で動かしていたんですね。その後、次第に蒸気機関を動力源とした、モーターとベルトによる駆動方式に切り替わっていきます。
現在の主流であるNC旋盤が登場したのは1950年代後半。それまで手作業で行っていた刃物台の移動距離や送り速度、材料の回転などの制御を数値で行えるようになり、高品質な精密部品の量産を可能にしました。
旋盤の種類には何がある?
旋盤には、使い方や構造の違いにより、さまざまな種類があります。一般的に「旋盤」という場合、汎用旋盤(普通旋盤)のことを指します。汎用旋盤は基本操作をすべて手動で行いますが、これに対し、プログラムに基づき自動加工を行うNC旋盤があります。
このほか、旋盤のサイズ、工作物の設置方法や刃物台の形状により、卓上旋盤、正面旋盤、立て旋盤、タレット旋盤、倣い旋盤などの種類があります。各種旋盤について、特徴をまとめました。
NC旋盤、CNC旋盤とは?
汎用旋盤は基本操作がすべて手作業であるため、作業者の技術力が製品の品質に大きく影響します。量産には向きませんが、試作品や一点ものなど少数の加工に向いています。
これに対し、NC旋盤では主軸の回転、刃物の移動距離や速度の制御をプログラミングすることにより、自動加工が可能です。曲面などの複雑形状をより精密に加工できるため、加工形状の自由度が増すことや、複雑形状の製品を量産できるという利点があります。
NC旋盤のNCはNumerical Controlの略で、日本語では「数値制御」を意味します。CNC旋盤と呼ぶこともありますが、頭のCはComputerの略であり、数値制御をコンピュータで行うことを意味します。現在はコンピュータによる制御が主流ですが、NC旋盤と呼ぶのが一般的です。
日本のNC旋盤メーカーにはヤマザキマザック、DMG森精機、オークマ、シチズンマシナリーミヤノ、ジェイテクトなどがあります。
用途別に卓上旋盤、立て旋盤、正面旋盤などを使い分け
旋盤には、汎用旋盤、NC旋盤の他にも、使い方や構造が違うさまざまな種類があります。
卓上旋盤は、作業台などの上に設置できる比較的小型な旋盤のこと。大型の材料加工に向いているのが正面旋盤、立て旋盤。正面旋盤は主に正面削りを目的としており、立て旋盤は主軸が上を向いているため、取り付けた材料が水平に回転するので、大きく、重い材料を安定して切削できます。
ほかにも、量産向けの機能を持った旋盤に、タレット旋盤があります。タレットとは、複数の刃物をセットすることができる、円盤状の刃物台のこと。円盤を回転させることで容易に刃物を切り替えることができるため、刃物の交換作業にかかる時間を短縮できます。
倣い装置により形状の複製を容易にした倣い旋盤もあります。こちらはNC旋盤が開発される以前に、複製が難しい曲面やテーパ形状を量産するために用いられました。
旋盤の構成、各部名称について
次は、旋盤の基本的な構成、旋盤各部の役割と、旋盤加工において登場する、一般ではあまりなじみのない用語について紹介します。
「送り装置」や「チャック」って?
旋盤の基本構成として、材料を取り付け回転させる主軸台、切削加工を行う刃物を取り付ける刃物台があります。刃物台を精密に動かすための送り装置、往復台、材料を支える心押し台を備えた部分をベッドと呼びます。
送り装置は刃物台を縦横方向に移動させる装置です。可動範囲は往復台より狭く、0.01mm以下の高精度な移動設定を行い、精密加工を可能にしています。
主軸台にとりつけてワークを固定する爪をチャックといいます。もっとも一般的なチャックは2つ、または3つ爪のスクロールチャックです。スクロールチャックはそれぞれの爪が連動して同時に動くため、円筒形状のワークを中心に固定することができます。ワークが円筒形状でない場合にはインデペンデントチャックが用いられます。それぞれの爪が独立して動作するのが特徴で、4つ爪形状が主流です。
旋盤技術者が持っておきたい資格「機械加工技能士」について
旋盤加工を学校で学んだ人や、実務経験がある人が受験できる「機械加工技能士」という国家資格があります。客観的な技能レベルを公的に示すことができるため、職種によっては就職や転職の際にアピールポイントとして利用することができます。以下、旋盤を扱う技術者が持っておきたい機械加工技能士資格についてまとめました。
機械加工技能士の取得に必要なスキルや受験資格は?
技能士資格は、各都道府県にある職業能力開発協会が実施する技能検定の合格者に与えられる国家資格。技能検定は「職業能力開発促進法」という、国の法律に基づいて実施される検定試験です。
法律によって一定の社会的地位が保証されるため、社会一般からの信頼性が高い資格だと言えます。合格者は、「技能士」と称せるほか、他の国家試験の受験や資格取得に際して特典が認められる場もがあります。
機械加工技能士は技能士のうちのひとつであり、金属材料を所要の形状に加工する能力に関連した資格です。特級(管理者、監督者レベル)から3級(初級技能者レベル)まで、4段階の等級区分があり、それぞれ受験資格が異なります。
2級以上の受験資格には実務経験が必要で、現場で経験を積みながら、上位の資格を取得していくシステムとなっています。
「機械加工職種」で受験者数が多いのは2級、合格率は約半数
検定試験は、工作機械の種類ごとに行われます。学科試験では選択式の筆記試験、実技試験では工作機械による金属の加工を実施。実技試験の出題内容は、指定された形状の部品を時間内に、指定の数量分製作する――といったものです。
平成29年度の技能検定実施状況をみると、機械加工職種の受験者数は全等級合計で22,168人、もっとも多い2級において6,789人となっています。2級合格者はこのうち3,547人と、約52% の合格率です。
参考 : 中央職業能力開発協会「技能検定のご案内」、中央職業能力開発協会「実施職種・試験概要(実技試験及び学科試験)」、厚生労働省発表データ(H29年度技能検定実施状況)
平成25年より実務経験6カ月未満でも3級の受験が可能に
受験に必要な実務経験年数は、特級は1級合格後5年以上、1級は7年以上、2級は2年以上です。3級については以前は「6カ月以上」とされていましたが、平成25年4月から緩和され、6カ月未満でも受験可能となりました。なおこれらの年数は、職業訓練受講歴、学歴などにより短縮される場合があります。
旋盤加工は日本のものづくりに欠かせない技術
以上、旋盤についての概要と、それに関連する国家資格について紹介させていただきました。
旋盤加工製品は、自動車部品や電子機器、医療機器など私たちの身の回りの工業製品にもたくさん使用されています。旋盤加工は日本の工業において欠かすことのできない重要な技術なのです。
現在の主流はNC旋盤による自動加工ですが、プログラムを作成するには高度な知識と技術が必要となります。最後に紹介した機械加工技能士資格は、旋盤工として働くうえで、技術力の証明として非常に有効な資格であるといえるでしょう。