USB Type-Cを知るための本
CQ出版社のインターフェース・デザイン・シリーズの4冊目にあたる「USB Type-Cのすべて」。実は最新刊の「USB 3.2のすべて」も3月4日から発売であり、そんな訳でちょっと遅めのレビューになってしまった事をまずはお詫びしたい。
「USB Type-Cの『すべて』という割に、続巻も出るのね?」とCQ出版に確認してみたところ、「あわせると700ページ強になって価格が跳ね上がるため」との返答。本紙は320ページで厚さ17mmほど。個人的には、普通に読むにはこのあたりが限界で、これを超えると辞典的な扱いになってしまうので、妥当な判断である気はする。
エンジニアが手元に置いての活用も可能
章立ては割と判りやすい。「USBの基礎知識」から始まり、「USB Type-Cのシステム構成」、「挿抜と裏表検出メカニズム」、「コネクタ&ケーブルの概論」と「伝送特性」、「PD(Power Delivery)」、「Alternate Mode」、そして最後に「ソフトウェアの対応とHost/Device側ハードウェア」という9章構成。「USBの事はまったく知りません」という読者にはちょっと敷居が高い(冒頭の基礎知識は本当に簡単なおさらいでしかないので、別途入門書を探した方がいい)が、「USB 3.0あたりまでは普通に触って理解しているけど、USB Type-Cの登場以降、いろんな規格が入り乱れてわけが分からなくなっている」という方がUSB Type-Cの現状を整理するのには丁度手頃な内容になっている。
もっともこの本、教科書というよりはエンジニアが作業場所に置いといて、「あれ? ここどうだっけ??」という時にパッと引っ張り出して確認するといった用途に向いた内容の深さになっている。
ソース/シンク側のプルアップ抵抗の一覧や、Alt Modeにおける信号のピンアサイン一覧、Specificationを引っ張り出して当該箇所を探すよりもずっと早く必要な情報にアクセスできる。そういう意味でも、筆者などには非常に便利というか、痒い所に手が届く内容になっているのは好ましい。
残念なところは電子書籍版がないこと
もっとも当然と言えば当然だが、この本「だけ」で設計をするのは無理である。例えば3.7章の「接続・切断検出の状態遷移図」のところに、主要な状態遷移図が示されているが、ここで示されるパラメータ(一例を挙げれば、エラーリカバリから復帰するまでの待機時間を示すtErrorRecovery)は、Specificationを見ないと具体的な数字が判らない(ちなみに最小で25ms)。あるいは、何かが接続されたかどうかを判断するための時間であるtCCDebounce(最小100ms、最大200ms)などもそうで、そのため本書とSpecificationの両方を見比べながら値を探すといった作業が必要になる。こうなってくると、Specificationの方がPDFで入手できるため検索も容易なのに対し、本書が書籍のみで電子書籍版が存在しないことが急に不自由に感じてしまう事は否めない。このあたりは出版社の事情もあるだろうから、電子書籍版を出せと強いる事は難しいが、ちょっと残念である。
残念ついでにもう1つ示しておくと、本書の章立ては必ずしもSpecificationと同一ではない。実際に設計などを行う際には、まずは本書を見ながらラフに設計なりプロトタイプコーディングをするなりまでは良いとして、最終的にはきちんとSpecificationに合致している事を確認する必要があるのは言うまでもない。
ところがその際に「本書のこの内容は、Specificationのどこにあるのか」を探すのに、意外に時間が掛かる事がしばしばあった。理由は(皮肉ではあるのだが)本書が良く練られた平易な日本語で記述されているが故に、それを(頭の中で)英語に翻訳してもSpecificationの表現と一致していないためである。パラメータの値などでキーワード検索を掛ける分にはそれでも何とかなるのだが。その意味では、本書や続巻の「USB 3.2のすべて」は致し方ないとしても、恐らく将来出るであろう「USB 4のすべて」では、ぜひSpecificationへのリンク(Chapter番号だけで構わない)を入れて頂けると多くのエンジニアが助かると思う。
多少苦言は呈させて頂いたものの、これが3520円(税込み)で入手できるのはUSB Type-Cに携わるエンジニアにとっては福音だと思う。英語が苦手という人はもちろんのこと、それなりに英語のSpecificationを読み慣れている筆者でも、Specificationを全部通して読むのは決して楽ではない(Specificationという性格上、非常に厳密な用語の使い分けがしてあるが、読んで楽しい事は全く考慮してないからだ)。その点、本書は、内容が充実しているだけでなく、楽しく読める内容になっている。Specificationを読む傍らに置いておきたい一冊である事は保証する。
USB Type-Cのすべて
出版社:CQ出版社
発売:2019/12/18
著者:野崎 原生/畑山 仁/池田 浩昭/永尾 裕樹/長野 英生/宮崎 仁
ISBN:978-4789846448
価格(税込):3520円
出版社から: パソコン周辺機器,モバイル機器,スマートフォンには必須となったUSB Type-Cについて,規格からしっかりしくみを解説します.
・どのように裏表検出しているの?
・従来の5V以外の電圧も供給できるの?
・電流も増やせるらしいけど,コネクタは大丈夫?
・USB以外の映像系プロトコルも流せるってホント?
上記のような疑問にすべて答える書籍となっています.
解説している規格は,次の二つになります.
・USB Type-C規格
・USB PowerDelivery規格
USBに関わるすべてのエンジニアの皆さんにお勧めの書籍です.