経済のグローバル化が進む現代。人々の移動手段である航空機の数は増加の一途をたどっており、併せて排出されるCO2も増加。持続可能な社会の実現に向け、その削減が求められるようになっている。

現行のジェットエンジンの改良でなんとかなりそうな気もしないではないが、現状の機構を採用したジェットエンジンの開発はかなり突き詰めるところまできており、新たな手法そのものに移行することに対する期待が高まってきた。その最有力候補が航空機の電動化だが、単にバッテリーを使ってモータを駆動させる、というだけだと、航空機を飛ばすための推進力を得ることは困難である。そこで新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、新たな航空機を実現するべく、2019年度より8つの研究開発項目からなる「航空機用先進システム実用化プロジェクト」をスタート。2020年2月26日より開催されている「日本ものづくりワールド2020」のNEDOブースにて、その概要の一部を紹介している。

ブース内でもっとも目を惹くのが3枚プロペラを備えたモーター。これは同プロジェクトの研究開発項目8、「次世代電動推進システム研究開発」の研究代表者を務める九州大学の岩熊成卓 教授による超電導モーターで、航空機の電気推進システムの実現には超電導化が必要であるという。

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    九州大学 岩熊教授らの研究開発チームの手で製作された超電導誘導モーター

超電導の最大の利点はモーターの小型化、高性能化が可能だというところ。鉄と銅線の塊である一般的なモーターに対し、超電導モーターは出力を2倍に高めつつも重量を1/10に抑えることができるという。モーターの小型化ができると、航空機の形状も必然的に変化してくる。岩熊教授によれば、ある程度の出力を持つ小型モーターを複数、機体の上部に分散配置することで、高い揚力を得ることができるようになり、理論的には現行の航空機の半分以下の出力での離陸も可能になるという。また、分散されたモーターを個別に回転制御することで、垂直尾翼なしで方向転換なども可能になるということで、機体の軽量化も可能になるという。

すでに同大内部で実施した回転試験では回転数400~500rpmを達成したという同モーター。冷却には液体窒素を用いているという。

プロジェクトは2019年度から開始され、2023年度までの5年間を予定。3年目に500kWの全超電導モーターを、5年後に超電導発電機、超電導ケーブル、そして超電導モーターなどを組み合わせた全超電導推進システムの試作機で出力1MWの達成を目指すとしており、その後も、地上試験、飛行計画まで進め、2030年代の実用化につなげたいとしている。

なお、岩熊教授によれば、小型・高出力のモーターであるため、それを組み合わせれば数百人の人間を載せる航空機を、数を減らせば空飛ぶクルマの実現にもつながるとしており、脱炭素社会時代の移動手段の変革を日本の技術で実現していきたい、としていた。