脱炭素社会で100年後も発展し続けられる社会を

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の技術戦略研究センター(TSC:Technology Strategy Center)は2020年2月14日、特別セミナー「持続可能な社会の実現に向けた革新的イノベーションへの期待」を開催した。気候変動問題などを乗り越えて、持続可能な社会である"脱炭素社会"を近未来に実現するための技術開発の方法論を提言し、パネル討論などで識者たちがその中身について議論した。

この特別セミナーの開催前に、TSCは記者会見を開催、エネルギーシステム水素ユニットの矢部彰ユニット長が「持続可能な社会の実現に向けた『技術開発総合指針2020』をとりまとめた」と説明し、その中身を解説した。その目指す"脱炭素社会"の未来像は「100年後でも200年後でも世界が経済的に豊かで、環境に優しく、自然と共生した社会を目指し、自然界・生態系の多様性を維持し、発展し続ける社会を目指す社会システムを実現していることだ」と解説した。

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    NEDO技術戦略研究センターの矢部彰エネルギーシステム水素ユニット長

脱炭素社会を実現するために必要な3つの社会システム

これを実際に実現するためには「サーキュラーエコノミー」「バイオエコノミー」「持続可能なエネルギー」の3つの社会システムを「一体的かつ有機的に推進し、炭素循環社会を実現する社会システムの推進態勢が不可欠になる」と、矢部ユニット長は説明する。「この3つの社会システムを総合的にとらえ、非連続なイノベーション推進につなげながら、経済合理性も満たして社会実装していくことによって、炭素循環社会を形成することが不可欠」と力説した。

この脱炭素社会を実現するためには、温室効果ガス(GHS)排出量の現状とその対策費用の見積もりなどの推定がまず前提となり、出発点となる。現状の温室効果ガス(GHS)排出量は2010年実績で490億t(CO2換算で、この内のCO2は370億t=76%)と見積もられている。

これを基に推定すると、2050年にはCO2排出が550億tまで増加する見通しとなる(各国際機関の推定見通しの値を複数並べて換算・推測)。この2050年時点では、技術革新などによる新しい手段・方法によってCO2排出は150億t程度の削減が可能になっていると読んでいる。この結果「残りの400憶tのCO2削減を実施するためには、1tのCO2削減にかかる費用として10万円(1ドル=100円で換算)を上回る値との前提で考えると、CO2削減の費用は毎年約1000兆円となる予想」という。「この1000兆円は世界のGDPの12%に相当し、既存技術のままでの削減実現は極めて高い目標値になる」と解説する。

この1000兆円という巨額の費用を現実的な許容レベルまで下げるためには「非連続なイノベーションによる新手法の開発を図ることが不可欠になる」とする。

持続可能な社会を実現するために考える新手法の開発では「サーキュラーエコノミーとバイオエコノミー、持続可能なエネルギーの3つの社会システムを一体的かつ有機的に推進する技術開発が不可欠になる」と説明する。

この3つの社会システムを一体的かつ有機的に推進する事例の1つの案として、次世代太陽光発電技術開発の可能性などを説明した。軽くて薄い次世代太陽光発電技術開発が実現すると、ビルの側面の壁などに貼り付けて発電することができ、かつ発電時にCO2を排出しない革新技術となる(ただし、次世代太陽光発電の製造時には、CO2をいくらか排出する可能性はある)。

こうした革新的な非連続なイノベーション推進では「革新技術の評価としてCO2削減ポテンシャルやCO2削減コストを基に定量的な議論を進め、産学官の英知を集中する研究環境・国際的連携、社会実装の支援策などを議論することが重要」と解説した。

持続可能な社会に向けたシンボルマークを作成

この技術戦略研究センターによる記者会見の最後に、NEDOが目指す持続可能な社会を実現する3つの社会システムの「CIRCULAR」「BIO」「ENERGY」を組み合わせて表すシンボルマークを作成したと発表し、そのシンボルマークを公開した。

このシンボルマークは、「CIRCULAR」を青色で、「BIO」を緑色で、「ENERGY」をオレンジ色のマークで表現したもの。このシンボルマークのロゴの発表では、石塚博昭NEDO理事長と三島良直TSCセンター長がロゴのプレートを持って初披露した。

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    持続可能な社会を実現する3つの社会システムの「CIRCULAR」「BIO」「ENERGY」を表すシンボルマークの公表セレモニー。石塚博昭NEDO理事長(右)と三島良直TSCセンター長(左)の2人がそのシンボルマークのパネルを公表した