英IHS Markitのテクノロジ―部門を買収し、ハイテク産業調査部門Omdiaを新設した情報調査分析会社の英Informa Techは2月18日(欧州時間)、新型コロナウイルスの発生と感染拡大の半導体産業への影響に関する同日時点の分析結果を発表した。それによると、「半導体業界はここまで新型コロナウイルスの直接的な影響を免れてきたように見えるが、川下の電子機器メーカーが生産の減速または一時停止の状況に陥っているため、今後は川上にもその影響がおよぶ可能性がある」としている。
新型コロナウイルスが半導体業界に与える影響
新型コロナウイルスの発生により中国の半導体関連業界はロジスティック、パッケージング、およびテスト分野で影響がでているにもかかわらず、前工程を担当する半導体ファブは、高い稼働率で稼働し続けているという。
「2020年の最初の2か月における半導体の供給は、新型コロナウイルスの影響を大きく受けているようには見えない。流通チャネルには十分な在庫があり、武漢をはじめとする影響を受けている地域にある半導体ファブの稼働率が低くとも、今のところは供給不足にすぐに陥るという様子は見えない。また、ウイルスの影響を受けている地域には、有力な半導体サプライヤはほとんどなく、そうしたサプライヤが販売する製品も、ほかの地域に拠点を有するサプライヤから容易に調達ができるものが多い」とInforma/Omdiaのコンポーネントおよびデバイス調査担当バイスプレジデントであるLen Jelinek氏はコメントしているが、一方で半導体産業の川下に位置する電子機器メーカー各社が生産に混乱をきたしているため、半導体産業の本当の危機は、自分たちの生産が止まるところ以外の場所で起こる可能性がぬぐい切れないとしている。
また同氏は、「世界の製造サービスの中心地である中国にはFoxconn(台湾の鴻海精密工場の中国法人)をはじめ多数のEMS(電子製造サービス)が大規模な工場を運営している。これらのEMSやODMこそ半導体の大量購入者であり、2020年の半導体購入の29%を占めるとみられる」と指摘しており、こうした工場の労働者たちが、主要都市の封鎖や公共交通機関の運休により旧正月(春節)の長期休暇から工場に戻ってくることができなくなり、労働力の不足から稼働がままならないままであれば、電子機器市場は第2四半期に入ると深刻な課題に直面することが見込まれるという。
例えばFoxconnのiPhone製造工場は、湖北湖北省武漢市から約300マイル離れた場所に位置しており、かろうじて稼働を続けているものの、労働者が不足するという事態に陥っており、稼働率は通常の10~20%程度に留まっているとみられている。同じ地区のほかのEMS/ODMも労働力不足に陥っているようだが、Foxconnほどには半導体の需要に影響を与える規模ではないほか、季節的要因として半導体需要も少ないことが、サプライヤのストレスを軽減させる方向に作用しているとする。
半導体業界最大の課題は輸出入活動の低下
生産そのものには大きな影響が見られない半導体業界だが、輸出入を中心とするロジスティクスに課題が生じてきているという。同氏は「中国を出入りするフライトが間引きされたり、欠航となってしまっているため、多くの政府職員も仕事に復帰できていない。その結果、中国の輸出入処理にかかる業務が、新型コロナウイルスの問題発生以前と比べてもはるかに時間がかかるようになっており、ビジネスのペースがダウンしてきている」としており、まだ比較的動きの少ない第1四半期である間はそれほど大きな問題にはならないと思われるが、第2四半期以降にも問題が長引けば、影響が大きくなってくるかもしれないとしている。
前工程ファブでの感染リスクはどの程度か?
ちなみに半導体の前工程ファブは、本質的に超クリーンで高度に自動化されているため、病気の蔓延を助長しない環境を生み出している。その結果、SMIC、TSMC、UMCといった中国国内で操業しているファウンドリ各社は、通常の生産状態を維持することができ、稼働率も高いままだという。
同社が紫光集団傘下のYMTCやXMCの経営幹部に行ったインターネットを介したアンケートによれば、武漢でもYMTCが生産ラインを通常レベルの稼働率で動かしているほか、子会社のXMCファブも順調に稼働しているというが、実際にどのように稼働しているのかといったことについて部外者にはまったく確認する術がない状況となっていることに注意が必要だろう。
確かに半導体製造に必須のクリーンルームは、ウイルスも侵入できぬほど密なフィルタを装備しており、外部からの汚染侵入に対して高いクリーン度を保っているが、その内部に直接、複数の人間が入って作業をすれば、当然、感染のリスクは発生するという点に注意が必要で、半導体ファブが正常に稼働しているというのであれば、そういった感染リスクは事態が終息に向かうまで、高まっていくと捉えるべきだろう。
半導体産業のボトルネックとなっている後工程
半導体産業の中において、パッケージングとテスト、いわゆる後工程領域は労働集約的な工程である。そのためEMS/ODMの工場同様、労働者不足のため、中国内の多くのパッケージング工場やテスト工場も稼働率を低下、ないし操業停止の状況に陥っている。そのため、後工程分野が半導体生産のボトルネックとなりつつあり、中小規模のファブレス企業などは、十分な製品数を確保できず、経営面で苦境に立たされる可能性も出てきたという。
なお、世界規模のMEMSおよびセンサのサプライチェーンの一部である中国のMEMS/センサ工場のほとんどは、2月10日に操業を再開すると宣言している。センサのサプライヤは、それまで延長された旧正月休暇中に生産を停止していたが、長期休暇の前に十分な在庫を積み上げていたことから、新型コロナウイルスの影響は受けていない模様である。