ボーイングと米国航空宇宙局(NASA)は2020年2月7日、ボーイングの新型宇宙船「スターライナー」が昨年12月、試験飛行中に発生したトラブルについての調査結果を発表した。
調査では、これまでに判明していた問題に加え、新たに2つの問題も発覚。とくにソフトウェアに重大な問題があったという。これにより、有人飛行の実現は大きく遅れることになりそうだ。
問題が多発したスターライナーの初飛行
スターライナー(Starliner)は、ボーイングが開発している有人宇宙船で、国際宇宙ステーション(ISS)へ宇宙飛行士を輸送することを目的としている。
宇宙船は、宇宙飛行士が搭乗する「クルー・モジュール」と、スラスターや太陽電池を装備した「サービス・モジュール」から構成されている。最大7人の飛行士が搭乗でき、単独で約2か月間、ISSなどにドッキングした状態では210日間にわたって宇宙飛行できる。またクルー・モジュールのうち、耐熱シールドなどを除く大部分は、最大10回の再使用が可能となっている。
スターライナーは2019年12月20日、無人での試験飛行のため宇宙へ飛び立った。当初は8日間かけ、ISSにランデヴー・ドッキングする技術などを試験する計画だったが、打ち上げ直後にトラブルが発生。予定していた軌道変更に失敗した。このため、ISSへのランデヴー・ドッキングを断念し、また飛行期間も2日間で切り上げることとなり、推進系や通信系の試験、ドッキング・システムの試験、環境制御・生命維持システムの検証など、最低限の試験を行ったのち、12月22日に地球に帰還する事態となった。
このトラブルについては、スターライナーが「MET(Mission Elapsed Time)」と呼ばれる、打ち上げからの経過時間を間違って認識していたことがすでに判明している。METは打ち上げ前に、スターライナーがロケットからデータを読み取ることで設定する。しかし、なんらかの問題で間違った数値を取得し、そのまま設定されてしまったという。
その結果、予定していたスラスターの噴射が行えず、地球を回る軌道への投入に失敗。その後、問題に気づいた地上の運用チームが修正コマンドを送ったことで、スラスター噴射を行い、軌道に乗ることはできた。しかし、それまでに大量の推進剤を浪費したことから、ISSにランデヴー・ドッキングするための軌道に乗ることができなくなり、早期に帰還せざるを得なくなった。
そして、今回明らかになったところによると、飛行中にさらに2つの別の問題も起こっていたという。
ひとつは、サービス・モジュールを廃棄するシーケンスにおけるソフトウェアの問題である。スターライナーは帰還時、まず軌道離脱噴射を行い、続いて大気圏再突入の直前に、サービス・モジュールとクルー・モジュールを分離する。クルー・モジュールはその後、ニュー・メキシコ州にあるホワイト・サンズ・ミサイル試験場に、すなわち地上に着陸するため降下するが、一方のサービス・モジュールは地上に落下しないよう、スラスターを噴射して飛行経路を変える。これを「廃棄噴射(disposal burn)」と呼ぶ。
しかし、スターライナーのソフトウェアは、通常の飛行条件において廃棄噴射することしか想定しておらず、今回のような緊急帰還を想定した作りにはなっていなかったという。そのため、分離後に誤った方向にスラスターを噴射し、サービス・モジュールがクルー・モジュールに衝突、クルー・モジュールの姿勢が乱れるか、最悪の場合耐熱シールドを破壊し、再突入が失敗に終わる可能性もあったという。
この問題は、METの問題が発生したあと、地上のエンジニアがソフトウェアの検証を行っているときに見つかったという。その後、即座に修正コードが作成され、地球帰還の約3時間前にアップロードして修正したことで、事なきを得たという。
もうひとつの問題は、宇宙船から地上に向けた通信リンク(ダウンリンク)が断続的になるトラブルで、これにより地上から宇宙船にコマンドを送ったり、制御したりといった運用に影響が出たという。
今後の計画はまだ未定だが、遅れは必至か?
こうした結果を受け、ボーイングとNASAは今年1月上旬に共同調査チームを立ち上げ、原因の調査と是正処置の検討を開始。その結果1月31日までに、METとサービス・モジュールのソフトウェアの問題については、原因を特定できたとしている。
NASAは声明の中で、「現代の宇宙船におけるソフトウェアは、コードが非常に複雑であり、問題が起こることは珍しくない」としている。ただ、「本来なら品質検査において、これらの問題は発見されるべきであった、あるいは発見できる可能性は十分にあった」とし、「ボーイングはソフトウェアの品質保証プロセスを見直すべきである」としている。
NASAの有人探査・運用局の副局長を務めるDoug Loverro氏は記者会見で、「真の問題は、ソフトウェアの設計、開発、試験のサイクルの中で、数多くの見逃しがあったことだ」とコメントしている。
また、スターライナーのプログラム・マネージャーを務める、ボーイングのJohn Mulholland氏は、「スターライナー向けに開発したすべてのソフトウェアの再検証を行う」と語り、またソフトウェア以外にも、共同調査チームが推奨する多くの修正に、すでに取り組んでいるとしている。
一方、ダウンリンクが断続的になった原因については、記者会見が行われた時点でまだ調査中で、2月末までに結論を出したいとしている。ただ、いずれにしても将来のミッションでは、通信システムをより堅牢にする必要があるとしている。
ボーイングとNASAは当初、無人での飛行試験が成功すれば、今年の春にも宇宙飛行士を乗せた有人飛行を行うことを計画していた。しかし、試験が不十分に終わり、また今回明らかになったように多数の問題も見つかったことから、有人飛行が延期になるばかりか、もう一度無人での試験飛行をやり直す可能性も取り沙汰されている。
両者は記者会見で、「スターライナーに必要な原因究明と修正案について結論づけるのはまだ時期尚早」とし、また「今後の飛行計画を決定する前に、これらの事柄(トラブルの原因や是正処置)が完全に解明されることが必要」ともコメント。今後の試験や飛行計画についてはまだ未定だとする見方を示した。
出典
・NASA Shares Initial Findings from Boeing Starliner Orbital Flight Test Investigation - Commercial Crew Program
・Statement on Independent Review Team Recommendations for the Starliner Orbital Flight Test Anomalies
・NASA, Boeing Complete Successful Landing of Starliner Flight Test | NASA
・NASA, Boeing to Provide Update on Starliner Orbital Flight Test Review | NASA
・Starliner investigation finds numerous problems in Boeing software development process - SpaceNews.com