名古屋大学大学院工学研究科の田中久暁助教と竹延大志教授らの研究グループはこのほど、導電性高分子に電荷を注入していくと半導体から金属状態に変わる境目で、温度差を電気に変換する性能が最大になることを発見した。IoT機器に電気を供給するフレキシブルな電源の開発に道を開く成果だ。
研究グループが使ったのは、分子配列が整って結晶性が高いチオフェン(硫黄を含む複素環式化合物)系の導電性高分子(PBTTT)の薄膜。ゲート電圧で材料に電荷を注入する「電解質ゲート法」と呼ばれる手法を用いて、薄膜の電荷濃度を調節した。また、熱電変換が可能なペルチェ素子で温度差を起こし、データを幅広く観察できるようにした。
実験の結果、電荷を注入するにつれて電気伝導率(σ)と発電性能(パワーファクター=PF)がともに高まり、電気伝導率は室温で1センチメートル当たり600S(シーメンス、電気伝導率の単位)を超えた。また、同200S付近に発電性能の明確なピークが発現していることを、PBTTTの薄膜で初めて見いだしたという。
電気伝導率には温度依存性があり、ゲート電圧の絶対値が小さく電荷濃度が低いと半導体に見られるように低温で値が減少し、逆にゲート電圧が大きく電荷濃度が高くなると低温で値が増加する金属的な傾向を示した。このことから、ピーク時には電気伝導特性が半導体から金属に変わったという。
また、分子配列の秩序が高い結晶領域では、従来考えられていたよりも低い電荷の注入量で金属状態が実現した。研究グループは素子設計を工夫すると、少ない電荷で高い発電性能が期待できると予想。将来的には、高い発電性能を持つフレキシブルな熱電変換材料・素子を開発し、IoT機器に人体を熱源とする微少電気を供給することを目指している。
研究グループには北海道大学電子科学研究所の太田裕道教授、産業技術総合研究所の下位幸弘研究チーム長が加わっている。成果は米オンライン科学誌「サイエンス・アドバンシズ」で公開された。
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