環境省は13日、東京大学弥生講堂(東京都文京区)でシンポジウム「科学技術イノベーション(STI)がもたらす地域の新たな価値創造」を開いた。持続可能な開発目標(SDGs)の観点から、科学技術は地域振興にどう貢献するかが話し合われた。
基調講演に登壇した科学技術振興機構の中村道治顧問はSDGsの進捗状況を取り上げ、「全体のフレームワークが見えてきたことは評価されるべきだが、去年9月のSDGサミット政治宣言では『もっと加速を』との注文がついた。乳幼児死亡率など改善された目標はあるものの、気候変動などは逆に悪化している」と指摘した。
日本の取り組みについては「SDGs世界ランキングが15位。とくに不平等の解消などが進んでいない」と戒めた。今後地域一体となる「共創の輪」づくりを強調。SDGs達成を目的にした2025年の大阪万博を「東京五輪に続くイベントとして成功させ、2030年にはSDGs世界ランキング10位以内を目指したい」と抱負を述べた。
基調講演に続く事例発表で、長崎県壱岐市の一般社団法人「壱岐みらい創りサイト」の篠原一生事務局長は、アスパラガス栽培を6次産業化したモデル事業を紹介し、「離島は人が住み続けるために経済の活性化がとくに大事」と語った。富士ゼロックスと連携し、「住民の夢」の掘り起こしと実現に向けた活動で、談話会などに高校生の参加が目立っていることも報告した。
北陸先端科学技術大学院大学の増田貴史講師と山梨県立大学の杉山歩准教授は、ブルーベリーやサクラなど、地域の植物資源を活用した草木染めによるアパレル産業の高付加価値化について語った。プロジェクトには農業者、デザイナー、研究者、学生、公務員など多様な人材が加わっており、増田講師は「みんながかっこよさを追究する先にSDGsがあったらいい」、杉山准教授は「信頼関係で結びついた組織が強みを発揮している」と述べた。
弘前大学の村下公一教授は、2005年から始まった「岩木健康増進プロジェクト」を紹介した。年間約1000人から10日間の日程で、2000項目にわたる膨大なデータを取得。企業・研究所など63機関がこのビッグデータを活用した社会実装に取り組んでいるという。村下教授は「住民の協力がカギであり、地方大学だからできること」と胸を張った。
後半のシンポジウムでは、情報通信研究機構の村山泰啓研究統括らが議論に加わり、地域の価値創造と科学技術の距離を埋めるため、地域の人々とのパートナーシップをどう醸成するかなどについて討議した。
篠原事務局長は「『ワークショップ疲れ』を防ぐため、談話会に自発的に参加してもらえるようにPRした」、増田講師は「多様な人が参加できるよう金沢城を借り切ったところ、3500人も集まった」、村下教授は「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムの採択がきっかけで注目度がぐんと高まった」などと話した。
最後に、情報通信研究機構の村山研究統括が「研究者が地域貢献を志しても、いまのアカデミアは論文を書かないと評価してくれない。一方で、欧米では論文以外の評価軸を探ろうとする動きがある。このようにしてカルチャーが変わると、本当の意味でのイノベーションが起きるのではないか」と結んだ。
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