韓国政府は2月11日、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を懸念し、韓国国民に日本を含む6か国・地域(日本以外はシンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、台湾)への「渡航自粛」を要請した。

新型コロナウイルスに関する韓国中央対策本部の副本部長を務める金剛立(キム・ガンリプ)保健福祉部(日本の旧厚生省に相当)次官は会見で、対象地域は2月9日に世界保健機関(WHO)が発表した「新型コロナウイルス(COVID-19)の症例と死亡が報告された国・地域」を考慮したうえでの決定だと説明している。

韓国政府は韓国国民に向けて、今回渡航自粛を勧告した日本をはじめとする地域への不急な渡航については極力避け、やむを得ず渡航せねばならぬ場合も、最少人数でかつ最小期間に限るよう要請している。また、並行して韓国政府は、韓国内の病院や薬局から韓国人患者が日本へ渡航したか否かの問い合わせに2月13日より答えられる体制を整えたとしており、他の渡航自粛国についても17日までにに順次答えられる体制を整えるとしている。

これに伴い、近年の両国関係の悪化によって減少傾向にあった訪日韓国人の数はさらに減少することが見込まれることが懸念されるが、日本の半導体素材・装置産業にとっても影響がおよぶ可能性が出てきた。

韓国の半導体業界関係者によると、韓国の半導体ならびに関連企業各社は、顧客の要請や素材購入の商談などでやむを得ず日本へ出張した社員に対し、帰国後14日間の自宅待機を求めるようになってきたという。事実上の日本への出張禁止と捉えられる措置で、裏返せば、日本から韓国に商談や技術支援などで赴いた日本人もすぐには相手先企業のもとに行くことができない、ということにもなる。実は、韓国政府が今回の要請を行う前から、すでに日本をはじめとする外国人の企業内への立ち入りを制限したり禁止する企業がでてきていたとのことで、日本の半導体関連企業にとってもビジネス上の支障が出始めてきていたこととなる。

2月上旬に韓国ソウルで開催予定であった「SEMICOIN KOREA」は中止(あるいは延期。ただしその可能性は低い)がアナウンスされたが、これも展示予定の韓国素材・装置メーカーが海外の半導体メーカーのバイヤーや来場者との接触を避けることを目的に相次いで出展取り止めを決定したことも要因といわれている。

韓国では、中国製の車載部品の入荷が中断された結果、現代自動車はじめとする自動車メーカー各社が工場を一時閉鎖する事態に陥っている(日本も日産自動車などが同様の状態に陥っている)。こうした事態を受け、日本の経済産業省に相当する韓国政府通商産業資源部は、半導体だけではなく、自動車をはじめとする主要産業の素材・部品・装備(装置・設備)の国産化をさらに強化する方向で、補助金支給に加えて緊急資金融資や労働体系の柔軟化を関係各所と協議していくとしている。

逆に、中国へ半導体メモリを輸出するSamsungやSK Hynixのような韓国の半導体メーカーにとっては、上得意客である中国の電子機器メーカーの稼働率低下や消費者のスマートフォンをはじめとする電子機器の購買意欲低下などの影響で、中国への半導体輸出量が減る恐れも出てきたという。

2020年2月13日時点で、日本でも感染経路不明の新型コロナウイルス感染者や死者が出る状況となり、今後、国内での感染拡大が確認される状況にでもなれば、韓国のみならず、ほかの国も自国民の渡航自粛要請や渡航禁止措置、あるいは日本からの来訪者に対する入国制限や禁止措置を行う可能性もでてくる。すでにミクロシア連邦をはじめ複数の国で日本が感染地域・国であるとして、入国するにあたり、制限を設けるなど、各国政府は新型コロナウイルスの感染拡大に対して敏感になっている。日本での感染が早急に終息に向かわない限り、各企業は、ビジネスチャンスを失わないよう、最悪の事態を想定した対策を準備しておく必要に迫られてきたといえるだろう。