国際科学技術財団(小宮山宏理事長)は4日、第36回となる2020年の日本国際賞を、デジタル通信に必要な情報理論・符号理論の研究に貢献した米マサチューセッツ工科大学名誉教授のロバート・ギャラガー博士(米国、88歳)と、古代人の骨のDNAを解析して古人類学の研究に貢献したドイツ・マックス・プランク進化人類学研究所教授のスバンテ・ペーボ博士(スウェーデン、64歳)に贈ると発表した。授賞式は4月15日に都内で行われる予定。
ロバート・ギャラガー博士の授賞理由は「情報理論・符号理論に対する先駆的貢献」。
ギャラガー博士は、データ通信の際に外部からのノイズなどの影響により生じる誤りを検出して訂正する「LDPC符号(低密度パリティ検査符号)」と呼ばれる方法を考案した。この方法は信頼性や実用性が高く評価されて5G(第5世代移動通信システム)で採用されるなど、高速大容量通信を支える技術として期待されている。
同財団によると、LDPC符号は、現在これに代わる符号が他に存在せず、今後コンピューター処理能力が飛躍的に向上すると考えられることなどから、適用範囲はさらに広がると予想されている。そして、情報通信の高速化、大容量化、低消費電力化などの課題解決に本質的、基本的な役割を果たすと期待されている。
ペーボ博士の授賞理由は「古代人ゲノム解読による古人類学への先駆的貢献」。
「現生人類(ヒト)の誕生と進化」の解明は古人類学の大きな課題だが、古人類学では発掘された骨や歯の化石の形態を元にその進化や分類が論じられてきた。ペーボ博士はDNAを抽出して解析する「遺伝学的手法」を取り入れて現生人類の進化の核心に迫る多くの成果を挙げた。
具体的成果としては、ミトコンドリアDNAでなく、核DNAを解析することにより、アフリカ人を除く現生人類の全DNAの1~4%がネアンデルタール人から受け継がれていることが分かった。このことは、6~7万年前にアフリカを出た現生人類の祖先が、6万年前頃に中東付近で先住のネアンデルタール人と交雑した後に世界中に広がったという現生人類の移動シナリオを描き出しているという。
4日、東京都内で行われた授賞者発表の記者会見でギャラガー博士は「たいへん光栄だ。私が1960年代に研究したことは当時は全く役に立たなかったがインターネット社会の今はとても有用なものになっている。今の研究者に伝えたいことは今は役に立たないと言われててもあきらめないで研究を続けてほしい。新規性のある研究は将来必ず役に立つものだ」などと語った。またペーボ博士は「たいへん名誉に感じている。遺伝学の窓を、人類の進化(の研究を)開いたと認められたように思う。この分野のたくさんの研究者が認められたということで謹んで国際賞をお受けしたい」などと話した。
国際科学技術財団によると、日本国際賞は、独創的・飛躍的な成果を挙げて科学技術の進歩に大きく寄与し、人類の平和と繁栄に著しく貢献した世界の科学者を顕彰している。1985年に初回の授賞式が行われ、受賞者は今回を含めて13カ国の96人。「物理、化学、情報、工学」と「生命、農学、医学」の2分野で毎年1人ずつ選ばれる。受賞者には分野ごとに賞金5000万円が贈られる。
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