東芝は2月3日、同社の掲げるCPS(サイバーフィジカルシステム)の在り方を体現することを目的に、データを価値ある形に変え、実社会に還元していくプラットフォームの提供を行うための新会社「東芝データ」を設立したことを発表した。
東芝 執行役常務で東芝データの代表取締役CEOを務める島田太郎氏は、「東芝という会社を考えると、多くの人が毎日、改札機であったりPOSレジであったり、何らかの東芝が手掛けたモノを利用してくれている。いわゆる東芝にとってのDaily Active User(DAU)だが、そこで得られる膨大なデータは活用されることなく埋もれたままだった。こうしたフィジカル(物理世界)で生み出されたデータをサイバー(電脳空間)に転写し、すでに蓄積された旧来からのサイバーデータと掛け合わせることで、新たな価値に転換できるのではないかと考えている」と新会社の根底に根付く考えを披露。ただし、あくまで人権が最優先とも述べる。この場合の人権は個人が生み出すデータはあくまでその個人のもの、という前提であり、企業がそれを強引に奪い、活用しようというのではなく、パートナー企業との連携、そしてエンドユーザー、東芝データの三方良しで進めることが重要であるとする。
東芝データが狙うBtoC向け裏方ビジネス
では、東芝データは具体的にどういった事業を行っていくのか。第1弾のソリューションとしては、東芝テックの「スマートレシート」を核とするプラットフォームビジネスの展開を進めている。
スマートレシートは、スマートフォン(スマホ)にレシートが届くアプリサービスで、すでに2019年11月より新生渋谷PARCOの公式アプリで採用されているほか、2020年度からはカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が提供するモバイルTポイントアプリや、スマホアプリであるグノシーを提供するGunosyとの連携による活用も予定されており、いつ、何をどれくらい購入したのかといったデータを細かく記録しておくことなどができるものとなっている。「いままで捨てていた紙のレシートを、電子化することで、個人にとっては、家計簿に活用したり、保証時期の確認、返品時の購入証明などで活用できるほか、特定商品の購入頻度が高いユーザーだけにクーポンを発行するといったことも可能になる」(島田氏)とのことで、2020年1月19日時点で84社788店舗で対応済みで、今後もすでに90社924店舗での対応が予定されているとのことで、2020年度中には10万店舗での活用を目指すとしている。
また、小売店舗ではなく、医療機関経営支援を行うシーユーシーとも連携を図っていく。こちらは、ヘルスケア支援を目的としたもので、食品の購入履歴などをもとに、健康な生活を実現するための支援サービスなどを提供することが考えられているという。
スマートレシートに対応といっても、東芝データでは東芝テックのPOSデータのみでビジネスを行うつもりはないという。あくまでデータ活用のためのプラットフォームベンダという立ち位置で、店舗のPOSはエコシステムのパートナーの企業のものであればなんでもよい。そこに東芝のブランド名は見えないが、顧客の購買データをしっかり握ろう、という戦略が見えてくる。
購買データは誰のものか?
ここで同社のビジネスで重要になるのは、購入履歴などのデータは誰のものであるのか、という点である。島田氏は「あくまで購入者個人のもので、我々はそのデータを預かっている存在。金融機関に対する預金と同じで、個人が同意しなければ、データを誰かに渡すこともない」と説明する。そのため、エコシステムを形成するためのパートナーシップを締結する相手企業との契約においても、ユーザーが利用に同意した場合のみ活用できるオプトインでサービスを提供することを条件の1つとして提示しているという。
あくまでユーザーが利便性を感じて、自分の意志で利用してもらうサービスを支える存在が東芝データがプラットフォームビジネスを行うという意義だといえるだろう。
そのため事業の収益方法は多岐にわたる。これまでは東芝ブランドのモノやサービスを提供して、その枠組みで儲けを出してきたが、東芝データの取り組みはプラットフォームビジネスとして、その都度、パートナーとの間で決まっていくものとなるようであり、同社の提供するプラットフォームがはまれば、小売りに限らず、さまざまなアプリケーションでの適用が考えられるという。
なお、設立当初の人員は外部から招へいした人材を含め総勢22名だが、2020年度末までには40名程度まで拡充を進めていく予定。その後も積極的に人員の拡充を図り、変化の早いBtoC領域でのフィジカルが蓄えているデータの活用を推進していく方針としている。