KDDI総合研究所は1月29日、基地局ネットワーク(RAN:Radio Access Network)を制御するRANコントローラの機能を拡張した新たなRANスライシング技術を開発し、アンテナサイトに設置する1つの無線装置(RU)に、次世代移動通信システム(5G)で想定される複数のサービスを収容する技術を世界で初めて実証(マルチCU/DU構成でのRANスライシングをプロトタイプ装置で実証した点が世界初)したと発表した。なお、5G基地局は基地局のデータ処理部であるCentral Unit(CU)と基地局の無線信号処理部であるDistributed Unit(DU)、基地局の無線装置Radio Unit(RU)の各機能で構成される。
5Gが本格的に普及する時期には、超高速・大容量、超低遅延、超多接続という3つの特徴に対して、用途に応じたネットワークを構築して提供する必要があり、今回開発した技術を用いることで、3つの特徴を持った各サービスを1つの無線装置で提供できるため、時間がかかる新規無線設備の建設を待たずに新たなサービスを迅速に導入できるという。
5Gでは、まずは超高速・大容量通信のサービスが開始され、本格展開する2025年頃には超低遅延や超多接続のサービスが普及すると考えられている。例えば、4K/8Kなどの高精細映像を伝送する超高速通信に加え、工場内における遠隔制御のため超低遅延サービスや大規模なセンサ端末からの情報収集を行うIoTサービスが普及し、各用途に応じたネットワークが必要になる。
汎用サーバ上で基地局ソフトウェアを動作させる「基地局の仮想化技術」を利用すると、サービスの多様な要求を満たす論理ネットワーク(スライス)を効率的に構築が可能となり、同研究所は2018年5月に仮想化技術を用いて基地局の機能(CU/DU)を柔軟に各サイトの汎用サーバ上に配置するRANスライシング技術を開発し実証した。
この場合、サービスごとに無線装置を用意する必要があったため、今回は1つの無線装置で複数のサービスを収容するという新たなコンセプト(マルチCU/DU構成)に基づくRANスライシング技術を開発。実証には、米Radisysの5G基地局のプロトタイプ装置を用いた。
以下の図は開発した技術を適用した場合のRAN構成例となり、前回開発した技術を用いてサービスに適した基地局の機能を各サイトに最適に配置しつつ、開発技術を用いることで1つの無線装置で複数のサービスを実現できるという。
また、新たに超低遅延や超高速・大容量通信のサービスを展開する場合、従来技術ではそれぞれのサービスに適したスライスを提供するにはサービス毎に無線装置を用意する必要がある一方で、開発技術では1つの無線装置に複数のDUを接続できるため、無線装置を追加することなく迅速にサービスを提供できるほか、イベントなどの時限サービスの場合には従来技術では他のサービスと基地局を共有することになり、輻輳時には他の通信の影響を受けて通信品質が劣化する可能性がある。これに対して、開発技術であればイベント開催期間だけ専用のスライスを構築することが可能なあるため、臨時でも安定した通信を提供することを可能としている。
さらに、端末側から配信する4Kのビデオ映像を1つの無線装置から超低遅延スライスとインターネットに向けて同時に配信できることを確認した。例えば、大規模イベント会場で来場者向けにリアルタイム映像を配信しながら、同じ映像をインターネット経由でも配信するようなサービスを提供できるという。
同研究所は開発したRANスライシング技術を実現するための構成や装置間インタフェースに関連する寄書をO-RAN Alliance(Open Radio Access Network Allianceの略称で、5Gなど次世代の無線アクセスネットワークを拡張性が高く、オープンでインテリジェントにすることを目的に活動している通信事業者および通信機器ベンダーによる団体)に提案しており、今後もプロトタイプ装置で実証したRANスライシング技術を実現するためのインタフェースの標準化を推進していく方針だ。