科学技術振興機構(JST)は2020年1月23日、理事長記者会見を開催し、「人と情報のエコシステム」研究開発領域という人文・社会科学系の研究開発プロジェクトとして令和元年度分(実際には2020年度分)の新規研究開発プロジェクト6件を採用したと発表した。
今回の新規研究開発プロジェクトの特徴は、英国の研究開発機関「UKRI(UK Research and Inoveation)」との国際共同プロジェクトとして公募し、日本型と英国を中心地とした欧州型の文化や社会概念の違いなどによるAI(人工知能)対応・概念などを研究するテーマを採択した点にある。
この「人と情報のエコシステム」研究開発領域という研究開発プロジェクトでは、人文科学系の知見を活かしたイノベーションによる社会課題の解決を目指している。その背景について、「2010年ころから始まった第3次AIブームによって生じた、人間中心社会を支える信頼されるAIが実現されるのかどうかという大命題にこたえる研究開発プロジェクトにもなっている」と、JST研究開発戦略センターの福島俊一フェローは解説する。
この「人と情報のエコシステム」研究開発領域の領域統括を務めている慶応義塾大学 総合政策学部の国領二郎 教授は「イノベーションによる社会問題の解決が急速に進む中で、その技術開発の入り口では、解くべき課題の設定や価値観の創造に対して、人文科学の主導的役割が一層、重要になってきている」と解説したほか、「イノベーション普及の出口での社会受容性を確保するためにも、人文科学による課題の解決考察の役割が一層、重要になってきている」ことを強調する。
国領領域統括は「人と情報のエコシステム」研究開発領域について、「健在技術による潜在的社会問題の解決という研究テーマと、潜在技術による潜在的社会問題の解決の両方を扱うが、どちらも短期的対応の延長線では解決しない問題がある点に難しさがある」と力説する。例えば、AI分野では物理媒体などの"身体"の制約を離れ、ネットワーク上で自在に結合する"知性"が登場することが考えられることから、「自律し、道徳性を備えた個人である人間がその人工物を制御し、結果的にその責任を負う」という大前提の根本概念が揺らぐこととなる。このため、AI倫理問題をどうとらえるかという「出口における社会受容性の確保のための人文科学の役割の重要性を解明したい」と語っている。
今回、日本と英国の研究開発機関が組んだ理由は、日本的な文化と英国の西欧的な文化が、例えば価値体系の違いはあるものの、その違いを基に情報技術にどうアプローチするのかなどについて人文科学面から解明し、今後のAIが普及する情報社会での概念を明らかにする必要があるという判断からである。
今回採択された日英共同研究プロジェクトでは、例えば大阪大学 大学院人間科学研究科の山本ベバリーアン 教授と英国のオックスフォード大学のJane Kaya教授がそれぞれ研究代表を務めるチームによる「ヘルスケアにおけるAIの利益をすべての人々にもたらすための市民と専門家の関与による持続可能なプラットフォームの設計」や、一橋大学 大学院法学研究科の角田美穂子 教授とケンブリッジ大学のSimon Deakinディレクターがそれぞれ研究代表を務めるチームによる「法制度と人工知能」などが研究開発テーマとされている。