従来、自動車開発におけるシミュレーションといえば、車載機器の熱や電磁ノイズの影響を把握するためのものであったり、空力解析であったりとハードウェア的な性能を推し量るためのものが多かった。しかし、そうしたシミュレーションでは、機能が要求された性能を発揮できるかか否か、という課題は解決できるものの、ボタンやタッチパネルの操作性といったユーザーの使い勝手、いわゆるソフト面の確認についてを把握することが難しく、実物がある程度の形となって出来上がってから確認する必要があり手戻りの遠因となるなど課題があった。
そこでパナソニックは、これまでのさまざまな機能を有する製品が価値を生み出すだけではなく、それを取り巻く周辺の環境や状況まで含めたユーザーエクスペリエンス(UX)が重要になってくるという発想のもと、次世代の自動車向けコックピット開発の効率向上を目指した取り組みを進めてきた。
その成果の1つが2019年秋にアナウンスされた自動車用コックピットのHMI開発を仮想空間で検証することで手戻りを減らすことを可能にするVRシミュレータである。
パナソニック オートモーティブ社でディスプレイビジネスユニット 第三商品部 総括担当の遠藤正夫氏は、「いまだにユーザーインタフェース(UI)のデザインなどは平面の画像を見て決めていくことが多く、事前にクルマの中に据え付けるとどのような印象になるのか、といった確認も困難。これを空間的、つまりクルマ全体をシミュレーションできる環境を構築することで、実際にモックなどを作る前に、操作性やデザインの課題などの検証が可能となり、結果として手戻りが減り、開発効率を向上することにつなげられるようになった」と、今回の成果を説明する。
具体的なVRシミュレータの構成としては、PC上に検証用の仮想空間を構築。全体的なUXの検討/検証用にVRゴーグル不要の最大5方向にプロジェクタを照射して、トリックアートのように実物大サイズのクルマが仮想空間上に存在しているかのように見せることを可能とするオープン型VRシミュレータを、パネルの操作性の確認といったUIの検討/検証用に専用の視野角を広げたゴーグル型VRシミュレータをそれぞれ用意し、用途に応じて使い分け、GUIの開発につなげていくことで開発効率の向上を可能にしたという。
「開発ロードマップの前の方からシミュレーションを活用していくことで、後半の手戻しが減る。また、副次効果として、開発の後半になって、大きな仕様変更が来るのではなく、初期段階から機能を付け足す、といったことも容易になった」とのことで、GUI開発における仕様変更が従来比で約30%減となったほか、開発スケジュールの都合でリリースできない機能というものも減らすことができたという。
また、この技術は仮想空間と現実空間をつなぎ合わせるものであり、自動車開発に用途を限ったものではないという。すでに同社でも2019年の東京モーターショーにおいてスズキと協力してスズキブースで次世代のクルマの姿を見せるのに活用したとするほか、サイネージとして等身大のバーチャルキャラクターとコラボするといった体験型コンテンツとしての活用やマンションの内覧、店舗やオフィスのレイアウト検討などにも適用できるとの見方を示しており、パナソニック全社としての活用にも期待を寄せる。
パナソニック オートモーティブ社としても、ドライバーが座るコックピット内や後部座席に向けたソリューションのほか、人や町の変化という車外の動きと併せたソリューションも提供していきたいとしており、「今までのデバイスを売る、という発想から、時間の変化に沿って、その都度ワクワクできるものの売り方へと向かっていきたい」としている。また、多様化していく自動車開発の現場ニーズにマッチする開発効率の向上を可能とするソリューションの実現を目指すともしており、将来的には視覚のみならず、触覚なども活用した進化系といったものの実現を目指し、自社・他社にこだわらず、実現したいことに対して必要なものがあれば活用していきたいとしている。