10月より実物大の動くガンダムが公開
「実物大の動くガンダム」が、いよいよ10月1日より公開される。ガンダム GLOBAL CHALLENGE(GGC)が1月20日、記者会見で明らかにした。高さ18mの実物大ガンダムが公開されるのは、横浜・山下埠頭に新設する「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」。約1年間の期間限定でオープンし、7月よりチケットを発売する予定だという。
実物大の動くガンダムは、アニメ『機動戦士ガンダム』の40周年プロジェクトの一環として、計画されたもの。初代ガンダム(RX-78)を実物大で再現するだけでなく、全身を動かすという野心的なプロジェクトで、2014年より進められてきた。プロジェクトの経緯については、過去の記事を参照して欲しい。
GGCの宮河恭夫・代表理事は、「このガンダムを見ながら、大勢の人が夢、技術、街作り、教育などについて語り合う。ここがそういう場になれば、ガンダムにとって非常に大きな成果」と語る。「40周年を迎えたガンダムの成長の段階と捉えて欲しい。これからもガンダムの挑戦にご期待いただければ」とした。
動く実物大ガンダムはどう動く?
「動くガンダム」である以上、最も気になるのは「どう動くか」というところだろうが、同日公開されたイメージPVも動く直前で終わっており、詳細は明らかにされなかった。10月の公開を楽しみに待ちたいが、開発を率いるGGCの石井啓範テクニカルディレクターからは、技術や施設に関する説明があった。
開発における最大の課題は、高さ18mという大きさだ。これは、通常の等身大ヒューマノイドロボットの約10倍。サイズを普通に10倍すれば、重量は3乗で1,000倍(=100トン!)にもなってしまう。これではとてもまともに動けないので、軽量化や減速機など様々な工夫が必要。転倒しないよう、安全対策も重要だ。
今回開発する実物大ガンダムは、鋼鉄製の可動フレームに、カーボン樹脂製の外装が付く仕組み。これで重量は約25トンなので、通常の4分の1程度まで軽量化されていると見ることができる。関節の自由度は、ハンドを除いて全身で24軸。アクチュエータは全て電動で、モーター(回転)とシリンダ(直動)を併用するという。
石井氏が明らかにした中で注目すべきキーポイントは、ガンダムの腰部を後方から支持して、台車の「GUNDAM-CARRIER」に乗せるとした点だろう。もしかすると自立での歩行を期待していた人もいたかもしれないが、技術的にも安全的にもさすがにそれは不可能。ただこの形態にしたことで、様々な表現が可能になると、前向きに考えることもできる。
過去の実物大ガンダムは全て、単体の立像となっていたが、今回の動くガンダムは機構のメンテナンスも必要になってくることから、GUNDAM FACTORY YOKOHAMAでは「GUNDAM-DOCK」に格納される形となる。これは実際のメンテナンス作業に利用するだけでなく、人数限定の特別観覧スペース(別料金)としても活用する予定だ。
なお実物大ガンダムの実現に協力するテクニカルパートナー9社についても紹介された。各社の担当については以下の通りだ。
- アスラテック(モーションプログラム、制御システム開発)
- 川田工業(GUNDAM-DOCK、GUNDAM-LAB 建築施工工事)
- ココロ(G本体ハンド設計・製作)
- 住友重機械搬送システム(GUNDAM-CARRIER製作)
- ナブテスコ(減速機製作)
- 乃村工藝社(G本体デザイン、フレーム・外装パーツ製作、演出)
- 前田建設工業(試験施設・試験技術協力)
- 三笠製作所(G本体内電気配線工事)
- 安川電機(G本体内モーター製作、制御装置製作)
夏には土日限定の特別プログラムも
GUNDAM FACTORY YOKOHAMAについては、施設を運営するEvolving Gの佐々木新・代表取締役社長より説明があった。
GUNDAM FACTORY YOKOHAMAは、屋外施設のGUNDAM-DOCKと、屋内施設の「GUNDAM-LAB」で構成される。GUNDAM-LABは、動くガンダムの仕組みを学べる展示施設に加え、ショップ、カフェ等を併設。コミュニケーションスペースでは、トークショーやワークショップなどの各種企画も実施するという。
開催期間は、2020年10月1日(木)から2021年10月3日(日)までの約1年間。営業時間は10:00~21:00となる。価格等、詳細については今後決めていくが、チケットは2020年7月頃から発売する予定だ。
ただ10月オープンだと、東京オリンピック・パラリンピックの開催期間に間に合わない。海外からの旅行客も想定し、オープン前の7月~8月には、土日限定の特別プログラムとして、一足早く会場に入って準備中のガンダムを見ることができる機会を提供する。こちらも詳細は未定だが、チケットは4月頃より発売する予定とのこと。
誰でもガンダム開発に参加できる!
ところで同日、プロジェクトのWebサイトで「GGCリサーチ オープンシミュレータ」が公開されたのだが、興味深い取り組みなのでここで紹介しておきたい。これは、ロボットシミュレータ「Gazebo」を使い、提供されるガンダムの3Dモデルを動かせるというもの。東京大学大学院情報理工学系研究科の岡田慧教授が開発した。
ROS(Robot Operating System)の環境を用意する必要があるなど、技術的なハードルはやや高いものの、利用規約に同意すれば、誰でも参加が可能。シミュレータでは物理エンジンが動いているので、姿勢のバランスを崩せば、リアルと同じように転倒してしまう。転ばずに動かすだけでもなかなか大変だ。
実物大ガンダムのような大きさになると、間違っても転倒は許されないので、トライ&エラーはできない。等身大のヒューマノイドロボットですら、転倒すると壊れてしまうため、気軽に動かせないのが現状だが、シミュレータ上であれば物理的に壊れる心配は無く、どんな無茶な動きでも自由に試すことができる。
岡田氏はこのシミュレータで、「カッコイイ動き」に注目したいという。一般的に、現在の2足歩行ロボットは、膝を曲げた状態で歩くことが多い。これはロボットの開発者にとってはある意味「普通」の歩き方になってしまっているのだが、ガンダムからはほど遠く、一般から見るとやはり格好が悪い。
「我々もロボットの研究を始めた当初は、ガンダムのようなカッコイイものを作りたいと思っていたはずだが、現実のロボットを触っているうちに、いつの間にかできることの限界に気が付いて、ガンダムなんて実現できないと諦めてしまう」と岡田氏は振り返る。ガンダムの力を借り、そうした常識を打ち破ることも狙いだ。
ガンダムであれば、その動きはカッコイイものでなければならない。現実のロボット研究だと、目標とするのは速度や精度などであって、なかなか「カッコイイ」という指標でロボットを考えることは無いが、「カッコイイ」というパラメータを与えることで、そこからブレイクスルーも期待できるかもしれない。
ガンダムらしい動きを再現していく中で、そのためには「どういうアクチュエータが必要なのか」ということが見えてくる可能性もあるだろう。岡田氏は「世界中の人に使ってもらい、本当のガンダムのようなカッコイイ動きができるよう挑戦して欲しい。18mロボットについて議論する際のプラットフォームになれば」と期待した。