中国・湖北省武漢市で発生し、コロナウイルスが原因と分かった新型肺炎の患者が国内で初めて確認された。厚生労働省や国立感染症研究所などの当局者は、現時点の情報では流行が広がる可能性は低いもののなお警戒が必要と指摘。空港などでの水際対策や正確な情報収集の重要性を強調している。

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    コロナウイルスの電子顕微鏡画像(左)(注:今回確認された新型肺炎の原因ウイルスの画像ではない)と模式図(右)。コロナウイルスは球形で、表面には突起が見られる。形態が王冠に似ていることからギリシャ語で王冠を意味する「corona」という名前が付けられた。脂質二重膜のエンベロープの中にNucleocapsid(N)蛋白に巻きついたプラス鎖の一本鎖RNAのゲノムがあり、エンベロープ表面にはSpike(S)蛋白、Envelope(E)蛋白、Membrane(M)蛋白が配置されている(説明と画像提供・国立感染症研究所)

世界保健機関(WHO)や厚生労働省、国立感染症研究所によると、昨年12月以降1月17日までに中国・武漢市で41人の新しい型の肺炎発症者が確認され、うち2人が死亡、5人は重症。またタイを訪れた武漢市の女性観光客が感染していたことも分かり、中国以外で発症した第1例となった。中国当局は9日に発症者から新型コロナウイルスが検出されたと発表、中国から提出された発症者のウイルスを調べたWHOも14日に新型コロナウイルスの出現を正式に認定した。

こうした中で15日夜には神奈川県在住で武漢市から今月6日に帰国した30代の中国人男性がこの新型コロナウイルスに感染したことが国立感染症研究所(村山庁舎)の検査で判明した。厚生労働省によると、この男性は帰国後に症状が悪化し、10日に入院して15日に退院したという。政府は15日付で首相官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置して対応を協議した。

コロナウイルスはウイルスの一種で人や動物の呼吸器に感染する。風邪の原因にもなる一方、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)など新たな重症呼吸器疾患を引き起こすものがある。新型のコロナウイルスはこのウイルスに対する免疫ができていない人の間で新型インフルエンザのように大流行する可能性がある。

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    新型肺炎を検査した国立感染症研究所村山庁舎(東京都武蔵村山市)(国立感染症研究所提供)

WHOと厚生労働省は、現時点でこの新型コロナウイルスが重症化する部類との情報はなく、人から人への感染が広がっている事態にはなっていないとしており、引き続き、新型コロナウイルスに関する情報収集を行っている。

厚生労働省は「人から人へ持続的に感染する明らかな証拠はない」とし、現時点では日本国内でこの新型肺炎の流行が広がる可能性は低い、との見解を示している。感染症対策に詳しいある当局者は「この見解は中国内での感染の広がり方などに関する情報を基にしたもので、新型コロナウイルスの感染力や重症度を今最終的に判断するのは早計で継続した警戒が必要。中国内でもっと広がっている可能性や軽症例が見逃されている可能性も否定しきれない」などと指摘。空港など入国管理上の水際対策の強化のほか、正確な情報の収集が重要としている。

また感染症の専門家は「一般の人は過剰な心配は無用だが、現在インフルエンザ流行の時期でもあり、咳などによる飛沫の飛散を防止するマスクの着用や手洗いの徹底など、新型肺炎の日本上陸も意識したウイルス感染症対策が大切」としている。

中国は今月25日が春節で来月にかけ中国内外の人の移動が盛んになる。外務省は17日の時点で中国・武漢市への渡航制限はしていないが、同省は武漢市からの帰国者や入国者に咳や発熱などの症状がある場合は特に注意し、検疫所の検疫官に申告するよう呼びかけている。

感染症の世界的な大流行は「パンデミック」と呼ばれ、1918年から1919年にかけて世界で猛威を振るった「スペインかぜ」が歴史的に最も有名。世界の死亡者数は定かではないが少なくとも2500万人以上で、5000万人から1億人に及んだとも言われる。2003年ごろのSARSはコウモリが由来とされ、アジアを中心に約8000人が感染し約1割が死亡した。パンデミックの一歩手前の事態だったとされている。2012年以降はMERSが流行し、SARSほどではないが多くの死亡者を出した。また2009年に大流行した新型インフルエンザについてWHOは最高警戒レベルを宣言したが、幸い世界が恐れたほどのパンデミックにはならなかった。

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