韓国ソウル特別市は、同市の朴元淳(パク・ウォンスン)市長が米国シリコンバレーにてパワー半導体ファブレスベンチャーのLion Semiconductor、バイオベンチャーのPalogenなどスタートアップ企業4社と会談を行い、4社がソウル市において合計3億3000万ドル規模の投資を行う覚書(MOU)を締結したと発表した。同市が大韓貿易投資振興公社(KOTRA)のシリコンバレー現地オフィスと共に開催したソウル市への企業誘致イベントによるもので、今回の4社のほかにも数社がソウル市に投資することに興味を示しているという。
ソウル市がCESでスマートシティをアピール
同市の発表によると、米国ラスベガスで開催されたCESに今回初めて出展。「スマートシティ&スマートライフ」をテーマに、5Gの活用などを含めたスマートシティをアピールしたほか、それと併せる形でシリコンバレーにて企業誘致活動を行ったという。
先般、韓国産業通商資源部長官(日本の経済産業大臣に相当)が渡米し、日本政府が輸出管理を厳格化したEUVレジストに関連して米Dupontから韓国での製造に向けた工場誘致に成功したことが明らかになっているが、今回の取り組みから、政府レベルのみならずソウル市のような地方自治体レベルでも米国企業の誘致やベンチャーキャピタルからの投資に向けた活動を進めていることがうかがえる。韓国政府は、「素材・部品・装備(装置・設備)」の国産化(海外企業誘致による韓国内生産を含む)を推進しているが、それだけではなく、高成長が期待される産業分野の企業誘致も熱心に進めている模様だ。
ソウル市に研究開発センタ―設置を計画
Lion SemiconductorおよびPalogenは、ソウル市内にそれぞれ1億ドル投資し、研究開発センターを設置する計画。Lion Semiconductorはパワー半導体デバイス、Palogenは血液採取によるガン診断技術の開発を行うという。
Lion Semiconductorは、2013年にサンフランシスコで起業された高性能パワー半導体デバイスのスタートアップだが、Xiaomiの5G対応スマートフォン(スマホ)「Mi9 Pro 5G」向け30W高速ワイヤレスチャージャーなどに採用されていることを公表するなど、高い技術力に注目が集まっている。
同社は「Korean Advanced Institute of Science & Technology(KAIST)」で電子工学を専攻し卒業した後、ハーバード大学で電子工学の修士・博士を取得したWonyoung Kim(ウォンヨン・キム)氏がカリフォルニア大学出身のJohn Crossley(ジョン・クロスリー)氏と共同創業した半導体ベンチャーで、キム氏が最高経営責任者(CEO)を、クロリー氏が技術担当副社長をそれぞれ務めている。
また、SK Hynixが韓国金融監督院(日本の金融庁に相当)に提出した報告書によると、2019年6月10日に35億3900万ウォン(3.5億円)の投資をLion Semiconductorに対して行っており、これにより株式の5.42%(166万5121株)を確保しているという。SK Hynixのほかに、米国国立科学財団(NSF)や複数の米国ベンチャーキャピタルも投資しており、モバイル機器の小型化に適合した小型・高性能PMICに優位性があるとされている。SK Hynixの関係者の話によると、SK HynixがライバルのSamsung ElectronicsのシステムLSI事業部門Samsung Foundryに対抗して力を入れ始めたファウンドリ部門がLion Semiconductorの製造を担当しているという。
5Gスマホ向けに需要が拡大する電源管理IC
市場調査会社である英IHS Markitによると、パワーIC市場において、PMICはスイッチングレギュレータ・コントローラに次いで大きな規模であり、2019年は52億ドル規模にまで成長している。今後、5Gスマホ向けに需要が拡大することが期待されており、2018年~2023年の年平均成長率は2~3%と予測されている。
一方、バッテリマネジメントIC市場は、車載市場におけるHEV/EV市場の成長から年平均6%の成長が期待できるとしており、今後高い成長が期待できる製品の1つとなっている。
なお、今回のソウル市によるLion Semiconductorの誘致について、IHS Markit半導体担当プリンシパルアナリストの杉山和弘氏は「韓国として、欧州や日本のパワー半導体企業に対抗するためにも、5GスマホやHEV/EV市場向けに有望なPMIC/BMICサプライヤを誘致したものと思われる」と今回の動きの背景について説明している。