米国航空宇宙局(NASA)は2020年1月6日、太陽系外惑星を探査する宇宙望遠鏡「TESS」の観測によって、液体の水が存在しうる「ハビタブルゾーン」に、地球とほぼ同じサイズの系外惑星があることを発見したと発表した。TESSによるこの種の系外惑星の発見は初めてとなる。
この惑星は、地球から約100光年離れたところにある恒星「TOI 700」のまわりを回っており、「TOI 700 d」という名前が与えられた。
今後打ち上げ予定の、次世代の宇宙望遠鏡などによるさらなる観測で、この惑星が"第二の地球"と呼べる特徴をもっているかどうかがわかるかもしれない。
TOI 700 dはどんな惑星?
TESSは、NASAが2019年4月に打ち上げた系外惑星探査衛星で、系外惑星が恒星の手前を横切る際、その恒星の明るさがわずかに暗くなる様子を観測することで系外惑星を検出する「トランジット法」を使い、系外惑星を探し続けている。
TOI 700は、地球から約100光年離れたところにある恒星で、日本からはほとんど見えない「かじき座」の中にある。太陽のように水素による核融合を起こしている恒星「主系列星」のひとつで、また太陽に比べてはるかに小型で低温の「M型主系列星(赤色矮星)」であり、質量は太陽の約40%、表面温度は半分ほどだという。
そしてTESSによる観測で、このTOI 700のまわりを3つの惑星が回っていることを発見。その後、NASAのX線宇宙望遠鏡「スピッツァー」や地上の望遠鏡による追跡観測により、それぞれの軌道周期や大きさをさらに詳細に突き止めた。
この3つの系外惑星のうち、最も外側を回るTOI 700 dは、地球より約20%ほど大きな惑星で、TOI 700から受けるエネルギー量は、地球が太陽から受ける量の約86%ほどだという。公転周期は37日で、またその公転軌道は、TOI 700系において水が液体で存在しうる範囲である、ハビタブルゾーン(Habitable zone)の中にあるという。
他の2つの惑星の公転軌道は、ハビタブルゾーンよりも内側にあり、温度が高すぎるなどの理由で、水が液体の状態で存在できないとみられる。このうち、最も内側を回る「TOI 700 b」は、ほぼ地球と同じサイズで、おそらく岩が多く、公転周期は10日。真ん中にある「TOI 700 c」は、地球の約2.6倍と、地球と海王星の間くらいの大きさをもち、公転周期は16日で、ガス惑星である可能性があるという。
TOI 700はもともと、太陽に似た恒星であると誤分類されており、そこからきわめて高温の環境にあり、惑星に生命が存在するのは不可能と考えられていた。しかし、高校生のAlton Spencer氏を含むTESSの研究チームが誤りを発見。パラメータを修正したところ、TOI 700 bがハビタブルゾーン内にあるという結果が得られたという。
また研究チームによると、TOI 700を約11か月にわたって観測したところ、「フレア」と呼ばれる表面の大規模な爆発現象が確認できなかったという。
赤色矮星は一般的に、フレアやコロナ質量放出などといった現象が頻繁に起こっていると考えられている。また、赤色矮星は太陽より低温であるため、そのハビタブルゾーンは、太陽と地球との間の距離もよりもはるかに恒星に近いところに存在する。つまり、たとえ温度的に水が液体で存在しうる範囲内に惑星があったとしても、フレアやコロナ質量放出などの直撃を受け、強い放射線が降り注いでいたり、大気が剥ぎ取られたりといった、生命は住めない環境にあるか、楽観的に見積もっても海の中に限定されるなど、言葉どおりの"ハビタブル(生命が居住可能)"な環境ではない可能性が指摘されている。
しかし、TOI 700がフレアなどの発生頻度が低い穏やかな恒星であれば、TOI 700 dが生命が存在できる環境にある可能性が出てくる。また、恒星からのフレアがなければ、望遠鏡などによる観測で惑星の質量を正確に測定できるという別のメリットもある。
ちなみに、TOI 700 bからdまですべての惑星は、地球の月と同じように、つねにTOI 700にある同じ面を向けて回転する、いわゆる潮汐ロックの状態になっているという。つまり、ある片側はつねに昼であり、その反対側はつねに夜ということになり、気候などは地球とは大きく異なる環境にあると考えられる。
研究チームは、惑星のサイズや軌道などの情報から、気候や地形に関するシミュレーションを実施。あるモデルでは、原始の火星のように、二酸化炭素を主成分とする高密度の大気をもち、TOI 700に面した側に深い雲の層があり、そして海に覆われているとするものや、現代の地球から雲や海をなくしたようなものとするものなど、さまざまなモデルが作られている。
これらの研究成果は、ハワイ・ホノルルで開催された第235回米国天文学会(AAS)で発表された。
次世代の望遠鏡によるさらなる観測に期待
はたしてTOI 700 dは第二の地球と呼べる惑星なのか。残念ながら現在の観測技術ではそこまではわからない。
しかし、NASAが2021年に打ち上げを予定している「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」や、ヨーロッパ南天天文台がチリに建設を予定している「欧州超大型望遠鏡(E-ELT)」などの観測によって、この惑星に大気があるかどうか、あるとすればその組成はなにか、といったことを明らかにでき、TOI 700 dに生命が居住可能かどうかがわかるかもしれない。
TESSが、ハビタブルゾーン内にある地球サイズの惑星を発見したのは今回が初めてとなる。これまでも、地上や宇宙望遠鏡からの観測で、ハビタブルゾーン内にある地球サイズの惑星(もしくはその候補)はいくつか見つかっている。
たとえば2016年には、太陽に最も近い恒星である赤色矮星「プロキシマ・ケンタウリ」のハビタブルゾーンで系外惑星「プロキシマ・ケンタウリb」が発見。さらに2017年には、欧州や米国などからなる国際研究グループが、地球から約40光年離れた太陽系外惑星系「TRAPPIST-1」に7つの地球型惑星を発見し、そのうち少なくとも3つはハビタブルゾーンに位置していると考えられている。
また、地球と比べると大きさや質量がやや大きいものの、地球と同じ岩石を主成分とする「スーパー・アース(巨大地球型惑星)」も含めれば、さらに多くの数が見つかっている。
TESSによる観測はまだ続いており、これからもTOI 700 dのような、第二の地球かもしれない系外惑星の発見はまだまだ増えていくことだろう。もしかしたらこの宇宙は、地球のような惑星に、そして生命にあふれているのかもしれない。
出典
・News | NASA Planet Hunter Finds Earth-Size Habitable-Zone World
・10 Things: All About TRAPPIST-1 - Exoplanet Exploration: Planets Beyond our Solar System
・Planet Found in Habitable Zone Around Nearest Star | ESO
・About TESS | NASA